「Aさんは遅刻が増えてきたな」
最近、院長はそう感じています。

Aさんは車通勤です。

他のスタッフと比べると自宅が遠く、
歯科医院までの所要時間は1時間。

遅刻とはいっても、
診療開始時間には間に合っています。

「仕事へのモチベーションが下がってきているのかな?」

そう思った院長は、
Aさんと面談をすることにしました。

もし、あなたが院長だったら、
Aさんに何と切り出しますか?

「なぜ?」の攻撃力

このケースで、「なぜ遅刻が多いの?」などと
切り出す人はいないはずです。

Aさんが罪悪感を少なからず抱いていることや、
「なぜ」とさらに問うことによって
Aさんが委縮してしまうことは、
容易に想像できるからです。

委縮させてしまえば、院長が本当に知りたいこと、
このケースにおいては、仕事へのモチベーションが
下がってきているかどうか
…への手掛かりは得られないでしょう。

このように、「なぜ」という問いかけには、
攻撃的なニュアンスがあり、
時に相手を委縮させてしまう力があります。

さらに、
「なぜ」と問うとその場の雰囲気は大抵悪くなります。

とはいえ、日常ではついつい「なぜ?」と
訊いてしまいがちですね。

では、「なぜ」と訊くことなく本音を引き出すには、
どのように言えばいいのでしょうか?

実は、医療人の皆さんにとっては
お馴染みの「ある行為」が
この課題解決の糸口になるんです。

ヒントは問診にあり

来院した患者さんには問診を行いますよね。
「お痛みはありますか?」
「どこが痛いですか?」
「いつからお困りですか?」
「今服用中のお薬はありますか?」
などと尋ねながら、

患者さんの困りごとを解決する手がかりを探ります。

余程のことが無いかぎり、
患者さんは普通に答えますよね。

なぜなら、問診の質問事項は
事実を尋ねる質問だからです。

患者さんも良くなりたいがために来院しているので
事実に忠実に答えようと真剣です。

だから、本音で話していると言えます。

事実質問を重ねることによって本音を引き出せる!

先にお話しした「Aさんの遅刻のケース」に戻ります。

面談で、院長はこう切り出しました。
「Aさんは、医院の仕事の中で何が好きかな?」

そこから、現状することが多い仕事や、
その仕事をいつ覚えたか、
誰から引き継いだか、
一緒にしているスタッフの有無など、
事実質問を重ねました。

質問を重ねているうちに、
院長は気づいたそうです。

あるスタッフの名前が挙がると、
Aさんの表情が曇る…。と。

自費カウンセリングにも応用できる

この質問手法は、自費カウンセリングにも応用が利きます。

口腔内写真や模型などのビジュアルデータを
使用しながら、患者さんのお口の中の事実に
関する質問を重ねます。

磨きにくい場所を尋ねる、
銀のかぶせの装着時期を尋ねる、など
尋ねるポイントは色々あると思います。

質問を重ねていくうちに、
意外な本音が飛び出すことや、
潜在的な欲求が見えてくることが必ずあります。
その本音や欲求に対して提案を行いましょう。

本音を引き出すだけではなく、気づきをも与えられる

この手法は、途上国開発分野でも採用されています。

途上国で「今困っていることは何ですか?」と訊くと、
もっともらしい答えが返ってくるのが常だそうです。

井戸を増やしたいが資金が不足している、
所得を増やしたいが産業がない、など。

実は、この「今困っていることは何ですか?」
という質問こそが「なぜ」と問うことです。
「なぜ困っているのですか?」と同義だからです。

一方で、現地の道具や木、衣服、家屋について
事実質問を重ねていくと、
現地の人々の生活が浮かび上がってくると同時に、
どのような支援が必要なのかが見えてくるといいます。

現地の人々もまた、質問に答えながら現状を
再認識することにより、「何をしなければならないのか」に
気づくことが多いそうです。

まずは「なぜ」をやめてみる

「本音を知りたい」という欲求は往々にしてあるもの。

本音を知りたいと思うその相手は、
あなたにとって大切なスタッフであったり、
患者さんであったりするのではないでしょうか?

まずは、「なぜ」という言葉を使わずに、
他の言葉で置き換えることが出来ないか
どうかを考えてみる、

そこから始めることをおススメします。

ヘルスケアチーム コーディネーターmyより