ある歯科医院でのお話。

A歯科医院に接遇マナー講師がやって来ました。

全員参加です。
スタッフだけでなく歯科医師も参加します。

研修は発声から始まり、次に美しい立ち方、
歩き方、お茶の出し方、名刺交換の仕方。

座学で敬語や、クレーム応対と盛りだくさんです。
全員が真面目に集中して取り組みました。

「休みを返上してまで研修なんて…」と
文句を言っていたスタッフもいましたが、
「普段勉強できないことを学べた」と、
終わる頃には有意義に感じられたようです。

さて、ここで質問。

この研修は、
A歯科医院にとって効果があると思いますか?

スタッフへの投資と考えたA院長

研修のきっかけは、
A院長があるチラシに
ふと目を留めたことでした。

チラシを持ってきた出入りの歯科材料店の営業から、
「この講師、元キャビンアテンダントだそうで。
僕会ったことがあるんですけど、
いやあ、さすが!と思いましたよ。
スタッフさんの接し方が良くなると、
患者さんが喜ぶんじゃないですか?」

このように勧められ、
少し心が動きはしたものの、
診療時間を削るわけにはいかないし、
かといって休みの日に研修なんて、
スタッフが何を言うか…と
チラシの開催日を見つつ考えていると、
「全員参加なら、講師が来てくれますよ」。とのこと。

移動する手間が省けるのなら、
まだ良いように思えました。

料金が少し高いように感じられましたが、
これは投資だ、そう信じて
申込むことにしたのです。

研修後のスタッフの反応は?

研修が終わって1週間経ちました。
業務終了後のスタッフルームで、
スタッフ数人が話しています。

「あー明日はやっと休みか!
先週はキツかったなあ~」

「休みの日に研修とか、ありえないよね。
勉強にはなったけど」

「でもさあ~お茶出しとか名刺交換って、
ウチら関係なくない?」

「思った思った!クレームもさあ、
そんなに無いだろ~って思った」

「院長ってさあ、
私たちに何をしてほしいんだろうね」

接遇マナーを学んでも意味は無い?

接遇マナー研修を実施する、
または参加する歯科医院は、
さほど珍しくは無くなりました。

自分ばかりが勉強するのではなく、
スタッフにも勉強してもらいたい…。

また、たとえ自院を辞めたとしても、
役に立つものだから、
と考えてのことでしょう。

それなのに、
上のスタッフ達のように言われてしまっては、
やるせないですね。

だからと言って、
接遇マナーを学んでも意味が無いのか、というと、
決してそんなことはありません。

では、本当に意味のある、
効果が望める研修にするには、
どうしたらよいのでしょうか?

接遇の目的は何ですか?

外部講師を招いて接遇マナー研修を行う、
またはマナー講座にスタッフを参加させたい。

こう思った時に、
是非考えてほしいことがあります。

それは「歯科医院接遇の目的」、
つまり「接遇によってどんな効果を得たいか」です。

接遇、という言葉から何を思い浮かべるでしょうか?

一流ホテルのスタッフやJALやANAで働く
キャビンアテンダントの、いわゆる
「おもてなし」を連想する人が多いのではないでしょうか。

彼らにも目的があり、
その達成のために接遇を行っています。

具体的には、
ホテルスタッフ・キャビンアテンダントの接遇の目的は、
快適なホテルステイや空の旅を提供して、
次の機会に再度選ばれることです。

では、歯科の場合はというと、
「快適な治療を提供し、次の機会に再度選ばれること」でしょう。

予防歯科であれば、
「快適なメインテナンスを提供して、
継続して通ってもらうこと」

快適と感じ、また来ようと思ってもらえるための接遇
ということになります。

「接遇の目的」を持つことで問題意識が生まれる

「接遇の目的」から考えると、
目的と合っていないものが
A歯科医院の研修内容に含まれているんじゃないか、
そう思うかもしれません。

確かにA歯科医院のスタッフが受講した研修は、
ごく一般的なビジネスマナーが基礎になっていますから、
先ほどのスタッフ達が「関係無くない?」と
言うのも無理はないような気がします。

A院長が目を留めたチラシには
研修の内容が記載されていました。

もし、このチラシをスタッフに見せて相談していたら、
名刺交換やお茶出しは、
私たちには関係が無いことなんじゃないか…。

このように異議を唱えるスタッフがいたかもしれません。

しかし、もし受講する前に
「接遇の目的」がハッキリしていたら?
やってしまいがちな所作に対して
問題意識を持つことができると思いませんか?

具体的には、
・もし、片手で物を渡したら、相手にはどう見えるか、
どのように感じさせるか
・もし、相手の目線の上から物を出したら、
相手にどのように感じさせてしまうのか
など。

ここから、
「相手に目的に合った感情を抱いてもらうには、
どのように振舞えば良いのか」
このようなことを学ぶことができるはずです。

目的が定まっていなければ、
丁寧な所作を知っただけ、
で終わってしまうでしょう。

どんな研修からも効果は得られる

「何を目指しているのかが曖昧なので、
通り一遍のマナーを教えるだけになってしまう」
このように悩むマナー講師に会ったことがあります。

目的をしっかり定めて、スタッフ全員で共有しておく。

そうすればどんな接遇マナー研修でも
効果が得られるはずです。

このことを、
参加する時には心に留めておいて下さいね。