「肺炎」が日本人の死因で第4位だということをご存知ですか?
なんだか、死因の上位に「肺炎」があるって意外だと思いませんか。
この「肺炎」とお口の健康にはどのような関係があるのか、
現在の知見を紹介します!

「肺炎」で2014年には、約118,000人の方がなくなっており、
死因の約10%を占めるという報告もあります。
しかもこのうち95%の方が75歳以上なのです!

日本は今後ますます高齢化率が上昇していきます。
すなわち、それに伴って「肺炎」を発症したり、
「肺炎」でなくなる方が増えていく可能性があり
非常に重要な疾患の一つであるといえます。

高齢者の「肺炎」といえば、よく聞くのは「誤嚥性肺炎」です。
今回はそもそもこの「誤嚥性肺炎」とは何か?
また、誤嚥性肺炎と口腔内環境の関係性や
口腔ケアの効果について、紹介していきます。

 

「誤嚥性肺炎」ってなに?

「誤嚥」とはご存知の通り、嚥下障害により飲食物や唾液などが
気管や気管支内に誤って入ってしまうことをいいます。

高齢者では、加齢に伴う生理的な変化以外に、
脳血管障害や神経系疾患などにより神経伝達物質が減少することで、
咳反射や嚥下反射がうまく働かなくなります。
例えば、これらの機能が正常に活動していれば、
誤嚥してしまっても咳き込んだりして何とか気管から出そうとします。
しかし、機能低下によりこれらの反射がうまく働かなくなることにより、
気管から中に飲食物や唾液などが入り込んでしまいます。

唾液の中には皆さんもご存知の通り、非常に多くの種類の細菌が
数千億個も存在するといわれています。

このようにたくさんの細菌を含んだ唾液などが、
誤って気管から肺に流れ込むと肺の中で細菌が増殖し、
肺炎を引き起こすこととなります。
これを「誤嚥性肺炎」といいます。

年を重ねるとどうしても
多かれ少なかれ嚥下機能は低下しますので、
「誤嚥」は避けては通れません。
さらに「誤嚥性肺炎」は再発も多いといわれています。
そのため発症と治療を繰り返すことにより、
抗菌薬に耐性をもつ菌に感染してしまうと
抗菌薬が効かず治療困難となります。

このようなことから「肺炎」は
90歳以上の方の死亡原因の第2位(2014年時点)
にもなっています。

 

歯周病や口腔内細菌数と「誤嚥性肺炎」の関係

過去の文献などによると、口腔内細菌の減少は
誤嚥性肺炎に関連した発熱を防止するのに効果がある
という報告があります。
さらに、慢性肺疾患の患者では
デンタルプラーク中の肺炎原因菌の陽性率が高い
というデータもあります。

論理的にいえば、冒頭から何度も出てきているように

口腔内の環境が悪い

口腔内の細菌数が多い

誤嚥により細菌が気管から肺へ進入する可能性がある

誤嚥により肺炎などの感染症が発症する可能性がある

というロジックが成り立つように思います。

さらに、高齢者で嚥下機能の低下以外にも、
「肺炎」のリスクファクターとしていくつか要因があります。

それは、例えば

  • 生活機能の低下(=プラークコントロール能力の低下)
  • 歯周炎の進行
  • 口腔内細菌の増加

です。

つまり、加齢変化自体が口腔衛生状態を悪化させる
リスクファクターとなる可能性があるということです。
確かに、口腔衛生状態の悪い方は歯周病や
う蝕に罹患している可能性も高いですし、
デンタルプラークが多いでしょう。

「加齢」は

  1. 嚥下機能を低下させる
  2. 口腔内の衛生状態を悪化させる

という2つのリスクファクターであることを加味すると、
高齢者では口腔内細菌が関連する誤嚥性肺炎のリスクは
高まるように思います。

しかし現実としては、未だ明確なエビデンスは存在せず、
これらの仮説に関連性があるかどうかについては
はっきりと言い切れない状況にあるようです。

加齢とは、これまで挙げてきた変化以外にも
さまざまな要因が複雑に絡まりあいます。
また一概に同い歳の高齢者といっても、
身体機能の状態はまったく異なります。

このようなことから、
口腔内の衛生環境(歯周病を含む)と肺炎の関係については、
縦断研究や介入研究などを含めた、
ますますのエビデンスの蓄積が望まれているところです。

 

口腔ケアにより、「誤嚥性肺炎」は予防できるのか?

口腔ケアと一口に言っても、誰がどのようなケアをするのか。
大まかに考えても「プロケア」と「セルフケア」など、
さまざまな方法があります。
しかしどのケアをどの程度することが有用なのか
明確に示されたエビデンスは現在の十分にはないようです。

とはいえ、論理的に考えると、
「肺炎」に口腔内の衛生状態が関与している
可能性は十分にあります。
口腔内細菌の減少が呼吸器疾患における発熱を抑制する
可能性があるという報告からも「肺炎」のリスクを
低減させるためには「口腔ケア」は非常に重要な役割を
担っていると考えられます。

さらに、口腔ケアでは、
ブラッシングや入れ歯の清掃などに加えて、
嚥下機能の回復に効果があるような動き
(主に口周りの筋肉を動かしたりする)
を取り入れることも効果的でしょう。

いつまでも、口から美味しい食事をとるということは、
QOLを向上させるためにも、非常に重要なことです。

口腔内の衛生状態をよく保ち、さらに嚥下機能の低下
を抑制し可能であれば回復させるような口腔ケアができれば、
もしかしたら「誤嚥性肺炎」は予防できるかも知れません。

今後、日本はさらに高齢化率が進むと予測されています。
加齢は、どんな人にも平等に訪れるものです。

口腔内の衛生状態が全身の疾患に影響することを、
早い段階からあなたの患者さんにもお伝えし、
セルフケアの習慣をつけたり、
予防歯科を始めるきっかけにしたりしてみませんか?