予防歯科の基本である
“プラークコントロール”という言葉。
テレビCMなどで耳にする機会も増えてきました。

あなたの歯科医院に来院される患者の中でも
この言葉を聞いたことがある人が多いのではないか
と思います。

その一方で、
口腔ケア用品を宣伝するというCMの特性上、
「これを使えばプラークが簡単に落とせる」と
主張するものがどうしても多いです。

プラークコントロールの本当の意味やその重要性が、
とてもそれらの情報だけで伝わったとは思えません。

ある意味それは仕方のないことですから、
ここは歯科医院の出番!
予防歯科の要であるプラークコントロールの
本当の意味を患者に伝えたいですね。

口腔ケア用品のCMをみて患者が感じること

歯磨き粉やマウスウォッシュなどのCMを見ていると、
「まるでこれを使ったら歯周病が治るような宣伝文句だな~」
と感じることがよくあります。

それは患者にとっても同じようで、
私もよく「どんな歯磨き粉を使ったらいいですか?」
「歯磨き粉のおすすめはありますか?」と聞かれました。

同じようなことを患者から質問されたことのある方も
多いと思います。

虫歯や歯周病、口臭などの口腔内の問題で
悩んでいる患者にとっては、
「効果のある歯磨き粉や洗口液を使いたい」
思うのはごく自然なことです。

それに対して私はこう答えていました。
「実は何を使うかよりも、使い方の方が大事です。
要はプラークが落とせているかどうかです。」

患者にとってはブラッシングの仕方を変えるよりも
歯磨き粉を効果のありそうなものに変えた方が
手っ取り早いのかもしれません。

ですが、歯ブラシを当てる角度や強さ、
動かし方が変わらないと、落とせるプラークの量も
変わりません。

患者の立場で考えてみると、
確かに日常的に目にするCMなどの情報からは、
歯磨き粉やマウスウォッシュに使われている
殺菌成分や抗炎症作用のある成分が
いわゆる“薬”のような働きをして口腔内の
歯周病原因菌を減らしてくれるような印象を受けます。

メーカーも実験を重ねているでしょうから、
ある条件ではその効果は事実なのでしょう。

ですが、そのCMを観た患者が「これさえ使えば」と
思ってしまうのは、やはり危険だと思うのです。

プラークの正体を明らかにし、プラークコントロールとは何かを伝える

実際には歯周病原因菌は口腔内のプラーク内に
存在しています。

そして、そのプラークは歯周ポケットやコンタクト、
歯頚部など歯ブラシの当たりづらいところに残っています。

それらのプラークが、使用する歯磨き粉や
マウスウォッシュを変えるだけで減ることは
考えにくいことですね。

一言で“プラーク”や“歯垢”と言っても、
その危険性がいまひとつ患者に伝わりづらかったり
実感してもらいにくかったりすることもあると思います。

私の経験ではプラークをただの“食べかす”のように
思われている患者もいました。

実際のところは、プラークは歯周病や虫歯の原因となる
細菌のかたまりです。

仮にプラークスコアが50%とすると、
歯面の半分に原因菌がへばりついているということになる…
患者にはそれくらい言ってしまっていいと思います。

そして位相差顕微鏡のある歯科医院では、
是非患者の口腔内からとったプラークの中の細菌が
うごめいている様子を、是非患者に直接見せてほしいと思います。

そう、プラークコントロールとは、
一言でいうと口腔内の「細菌のコントロール」。

自分の口腔内に合ったホームケアで
プラークコントロールをするということは、
今現在起こっている口腔内の問題、将来起こりうる問題の
原因となる細菌を減らすことに直結するのです。

そのことを確実に、そして分かりやすく、
できるだけ実感しやすいように、患者に伝えることが必要です。

実体験!正しいプラークコントロールで虫歯原因菌が減った!

実際の私の経験では、こんなことがありました。

40代半ばの男性の患者で、
ブリッジをインプラントへと切りかえる治療を
希望して来られた方でした。

残存歯のほとんどが失活歯で、
すでに喪失している歯も多数あり、
数少ない支台歯でブリッジを支えていました。

治療歯と喪失歯の数は年齢平均を大きく上回っていました。
口腔内を診るからに、
虫歯リスクがものすごく高そうな方です
(歯周病リスクはそれほど高くなさそうでした)。

しかし、その患者の唾液検査をした結果を見て驚きました。
ミュータンス菌、ラクトバチラス菌ともに
検出された量がごく微量だったのです。

そんなはずはない。
治療歯数から考えると、
過去に原因菌が口腔内に大量にいなければ
このような口腔内には至っていないはず…

ご本人に話を伺うと、確かにかつては忙しさを
理由に歯磨きをおろそかにしていたそうです。

そして次々に自分の歯を抜歯することになった時、
手入れを怠った事を後悔し、今では自宅でのケアに
かなり手をかけているということでした。
歯ブラシだけでなく、
歯間ブラシやフロスも毎晩使われているそうで、
実際に歯周検査をした時のプラークスコアも
一桁台だったと記憶しています。

この話から推測するに、
数年前は確かにこの患者の口腔内の衛生状態は悪く、
虫歯原因菌も多数存在していたはずです。

しかし、ホームケアを徹底して見直したことで
口腔内のプラークが減り、同時に虫歯原因菌も減少した、
ということです。

この患者の例はカウンセラーをしていた私にとっても
貴重なものとなりました。

良好なプラークコントロールを続ければ、
口腔内に存在する虫歯原因菌の量も必ずコントロールできる
という確かな証拠を、その患者が示してくれたのですから。

他の患者にもより自信を持って
「歯磨きでプラークを落とせば細菌の量を減らせる」と
話せるようになったのです。

予防歯科の基本であるプラークコントロール。
プラークとは何で、それが口腔内に居座り続けることが
どんなに恐ろしいことであるか…

TBIをする時、
患者からホームケアについての質問が出た時、
それを伝える機会はたくさんあると思います。

日々予防歯科を実践されている皆様でしたら、
プラークコントロールで患者の口腔内が
改善していった体験もしているかと思います。
是非その実例を他の患者にも伝えて頂きたいと思います。

オーラルヘルスケアチーム 歯科TC Nより