これまで初診カウンセリングの中でも
主に患者の思いを聴き出すスキルについて
お話してきました。

患者の話を全て聴き終わったら、
いよいよ次はこちらの伝えたいことを話す番です。

患者に予防歯科の良さを知ってもらい、
心からあなたの歯科医院の方針に共感して
通院を続けてもらうためには、
初診時のカウンセリングからしっかりと
予防歯科という考え方を伝えることが大切です。

今回は、この「予防歯科」の考え方を
患者に伝える5つのポイントについて話をします。

1.予防歯科の説明なしでは患者に「治療が長い」と勘違いされてしまう

予防歯科では
必ずしも最初に主訴の治療から始めるのではなく、
まず歯周病治療やTBIで口腔内の衛生管理を
行ってから虫歯治療にとりかかることを基本としています。

そういった診療方針は本格的な予防歯科に初めて来院される
患者にとっては遠回りで長いものに思われがちです。
あなたにも経験があるかもしれません。

特にそれまで
「歯医者では悪いところだけを、症状が出てから治療する」
という歯科医院との付き合い方をしてきた患者ほど
そう感じてしまうものです。

予防歯科についての知識を得る機会がなかったので
当然のことですね。
これは患者の責任ではありません。

患者に予防歯科の知識がないために
「この歯医者はなかなか虫歯治療をしてくれない」だとか
「無駄に長く通わされる」と勘違いされてしまうのは、
とてももったいないことです。

だからこそ予防歯科という概念を
初診時から患者に伝えることはとても重要なのです。

そして患者にその方針に共感・納得してもらい、
「どうやらこの歯医者は痛いところだけ治して
終わりということにはならなさそうだ」
「根本から治すためには続けて通院する必要があるんだ」
と覚悟を決めてもらうことが必要です。

患者に正しい予防歯科の知識を与えるのも
歯科医院の大きな使命です。

2.一方的な説明はNG 患者の共感を引き出す話し方

どんなに立派な治療方針を患者に訴えかけたところで、
それが患者一方的になっていては価値観の押しつけだ
という印象を与えかねません。

予防歯科という方針を患者に伝える時にも、
こちらがただ説明するだけでは伝わりにくいのが事実です。

ではどうすればいいのでしょうか。

それは、これまでにもご紹介した通り、
ここでも「質問」を効果的に使って
患者の「健康なお口になりたい」という気持ちを
引き出しながら会話をすることです。

たとえば、
「当院では痛いところだけ治すのではなく
根本からお口の問題を解決することを方針としています。
そのためには…」
と淡々とマニュアル通りの説明をし続けるよりは、

「虫歯になる原因が取り除けていなければ、
歯科医院で悪いところを治療してもまた悪くなって
治療の繰り返しになってしまいます。
さきほど伺った○○さんのご経験にもあてはまりますね。
これでは歯科医院に歯を削りに来ているようなものだと
思われませんか?」

「健康なお口になりたくて歯医者に行っているのに、
通う度に治療した歯が増えていく。
これでは本当の目的と逆の結果になっていると思いませんか?」

と、実際に患者から聞いた治療歴を例にあげたり、
「~~と思われませんか?」と質問形式で
語りかけたりして、
その都度患者の反応を確かめながら会話してみてください。

一方的な会話では主体がこちらになってしまい、
いつの間にか患者が話を聴いていないこともあります。

ところが、実際の自分の例が話題になったり、
途中で問いを投げかけられたりして患者が話す機会ができると、
患者はこちらの話に集中して共感してくれやすくなるのです。

3.患者は自分がされている検査の内容を分かっていない!

大まかに治療方針の説明をして
患者のリアクションをみたところで、
初診の診察でどのような検査をするのかを案内しましょう。

私の経験では、
「歯周病の検査を受けられたことはありますか?」
という質問には、
「う~ん…分かりません。」だとか
「ないと思います。」と答えられる患者が多いです。

ですがその後同じ患者に「歯茎をチクチクと触って
歯茎の溝の深さを測る検査をしたことがありますか?」
と聞くと「それならあります。」と答えます。

これはどういうことでしょう?

そう、実は歯科にかかったことのある患者でも、
自分が何の検査をされているのかはっきりと
分かっていないことが多いのです。

患者の口腔内全体を把握することは
予防歯科の大前提です。

今後患者が納得して予防歯科に
向き合うことができるかどうかは、
予防歯科への入り口である初診時に
何のためにどのような検査をするのか、
患者自身に理解してもらうことに
かかっているといってもいいでしょう。

4.患者本人の意思確認を忘れずに!

そして忘れてはいけないのは、
治療方針と検査内容の説明が終わったところで
一度患者の意思を確認することです。

残念ながら予防歯科という考え方を
患者に強要することはできません。

どんなに話をしても
「痛いところだけ治療してくれればいいから」
という患者も一定数存在します。

ですがもっとも大事なのは、
予防歯科という治療方針を知った上で、
“患者自身が自らの意思で”その方針に同意し
治療を受けることです。

私の経験では、初診カウンセリングで
患者とうまくコミュニケーションがとれていれば、
初診患者の8~9割に予防歯科という考え方を理解し、
共感してもらうことができます。

それでも主訴のみの治療を希望する患者もまれにいますが、
何も知らずにその選択をしているのか、
予防歯科という概念を理解してもらった上で
その選択をするのかは大きな違いです。

5.スタッフ全員が心底予防歯科を理解すること

歯科医院側が本当の意味で
予防歯科を理解していなければ、
患者に伝わるものも伝わりません。

予防歯科を患者に伝える上で大前提となるのは、
歯科医院に勤めるスタッフ全員が
予防歯科の概念を根本から理解することです。

ですが、これが一番難しい…。

だからこそトップである院長や歯科医師、
歯科衛生士のリーダーがブレずに方針を
貫くことが大事であり、日ごろからのスタッフ教育が
そのまま患者教育にも直結するといえます。

予防歯科で患者の口腔内の問題が
解決していくプロセスは、
患者のためにも患者と関わるスタッフのためにも
予防歯科の良さを教えてくれるものです。

患者にも、スタッフにも、
根気強く予防歯科を伝え続けていきましょう。

オーラルヘルスケアチーム 歯科TC Nより