中堅スタッフの悩みでよくあるものに、
「患者さんに言っていることが伝わっていない
気がする」という悩みがあります。

チーフのAさんは、
中堅スタッフのBさんからこんな相談を受けました。

「話をしていても、ちゃんと伝わっている
という気がしないんです…」
Bさんは不安げに続けます。

「これからは新人スタッフを指導することが
増えると思うんですが…
これではちょっと無理かな、と思ったりします。」

伝えることそのものに
自信が無くなっている様子が伺えます。

中堅スタッフは「破」の時期にいる

勤続3年以降のスタッフを「中堅」と呼ぶ
歯科医院がほとんどだと思います。

中堅スタッフは守・破・離(しゅ・は・り)の
「破」の時期にあると言えます。

守・破・離(しゅ・は・り)とは、
剣道や茶道など武道芸道の修業の段階を
示したもので、仕事上の個人スキルを得る段階に
落とし込んでみると、このように言えます。

守:教えられた通りにできるまで、
  一人でできるまでの段階(新人)
破:守で学んだ事を分析し
  改善・改良できる段階(中堅)
離:守破で得た物を横断的に使い
  新たな価値観を持つ(ベテラン)

「破」の時期のスタッフは、
歯科医院でいうと衛生士であれば
患者さんを単独で担当し始める時期です。

助手や受付なら先輩の助け無しで
業務にあたる時期、と考えるとよいでしょう。

「破」の時期は患者応対がルーティン化しがち

「破」の時期には、
それまでに身につけ学んだ事を
「これでいいですか」等の確認を
誰にも取ることなく使っていくようになります。

言い方を変えると、
やり方を自分がやりやすいように変えながら、
与えられた業務をこなすようになるということです。

やり方はどうあれ、
表面に出る結果が適正であれば良い、
ということを簡素化し過ぎ、
「こう言っておけば大丈夫だろう」
「この術式なら間違いないだろう」
「こういう患者は~…」
このように考えるようになりがちな時期でもあります。

こうなると、
誰がどんな事を言ってきたとしても、
応対は同じになりますし、
これはこう、こういう時はこれ、
と患者さんを一人一人を見た応対になりません。

これに対し患者さんは
「言っていることは間違っていないんだけど…」
と違和感を覚え、
何となく距離を感じてしまったりします。

事務的な応対とはまさにこのことです。

「間違ってはいないけど、何か違う」の理由

チーフAさんがBさんの患者応対を
見ていて思ったのは、
「患者さんをさばいている感じ」でした。

応対というよりは、
「処理」に近いと感じたそうです。

例えば、こんな場面です。

「Bさん、最近フロスが
上手く入らないんだけど…」
と初老の患者さんが訴えてきた時に
Bさんはこう答えました。

「そうなんですね。
ではフロスを変えてみてはいかがですか?」

この応対は一見問題なく、
話の流れもごく自然に思えます。

しかし、患者さんの訴えの本質を
見極めようとしていない為に、
冷たく事務的な応対にも思えます。

フロスが入らない理由を知りたいのか
今使っているフロスが合っていないと
感じているのか

フロスの交換を提案する前に、
患者さんの訴えの本質はこれらのうちの
どれなのかを見極める為のやり取りがあってこそ、
患者さんは「認めてくれている」と感じて安心します。

この場合は、
「どのあたりに入りづらいですか?」
「○○さんはどのフロスをお使いでしたか?」
などの見極めの質問が患者さんを安心させます。

そして、安心ができてから
はじめて話を聞く態勢ができます。

見極め無しにいきなり提案しているBさんですから、
「伝わってない気がする」と思うのは当然と言えます。

患者さんは解決だけを求めてはいない

「破」の時期は誰にでも平等に訪れます。

悩み苦しむことも多い時期なため、
事務的な応対になるなどで難を逃れがちです。

しかし、ループにハマってしまっても、
脱却するための方法は意外と単純です。

それは
「患者さんの話に耳を傾けること」
「認めること」、
これに尽きます。

患者さんが何かを訴えてくると、
真面目な人ほど「何とかしてあげなくては」と
思ってしまいますが、
患者さんが求めているのは
理解や認知であることの方が多いものです。

だから、
何と言っているのか
困っているのか、
そうでもないのか
具体的にどのようなことで困っているのか
ここに耳を傾け、
理解し認めることが何よりも大事です。

もし以前ほど
患者さんとおしゃべりをしている所を見かけない、
などというスタッフがいたら要注意です。

「患者が定着しない」の悩みの答えも同じかも

この「破」の時期は、
スタッフだけでなく歯科医院という組織も
また必ず通る段階です。

予防歯科で経営を安定させようと、
様々な手を打ちますが、
上手くいった取組や方法を検証することなく
ただ繰り返す、
ニーズに即していないサービスに
お金をかけ続けることは、
やがて歯科医院そのものの衰退を招きます。

患者さんが健康に過ごすことを望む気持ちは
大前提としてあると思います。

その気持ちを、患者さんの話に耳を傾ける、
このことで表現してみて下さい。

そうすれば、
これまでとは違った信頼関係が生まれるでしょう。