「一生自分の歯で食べるために」
「8020を目指しましょう」
よく見かける謳い文句です。

歯科関係者なら目指して当たり前の目標です。

しかし、一般の人、
つまり歯科関係者以外の人がこれを見た時の反応は、
予想を大きく裏切るものです。

「自分の歯で食べられない人もいるんだな。
総入れ歯のことかな…自分には関係無さそうだけど。」
「何の数字だろう?よくわからないけど、
きっと自分には関係無いだろうな。」

関係無い。

こう思われてしまえば、
どんな訴えかけも滑ります。

なぜ「関係無い」と思うのでしょうか?
どうしたら、関係が大アリなんだと
気づかせることができるのでしょうか?

患者さんの考え方はどんなものか理解する

患者さんに予防歯科を自分事として
考えてもらいたい時には、
一番に「常識の違い」を認識する必要があります。

例えば、誰かにこう尋ねてみてください。

「歯は何本あると思う?」
大半が答えられないか、
「20本ぐらい」と近い数字で答えると思います。

逆に、
「歯は28本ある」は歯科関係者にとって常識です。

「一本ぐらい無くなっても大丈夫」
前歯には前歯の、臼歯には臼歯の
はたらきがあるということは、
歯科関係者にとっては常識ですが、
「歯は代わりが利く」と思っている人は
多く存在します。

「無くなったら補充すればいい。
そのために入れ歯があるんじゃないの。」

天然歯の素晴らしさを知らなければ、
このように考えるのが当然です。

予防啓発への第一歩は、想像すること

このような常識の違いは、
確かに存在しているものの、
表に出てくることはあまりありません。

「わざわざ言わなくてもわかっているだろう」
と思うのが常識というものだからです。

なので、常識の違いを明らかにする為には、
「一般の人はどう思っているんだろうか?」
と想像してみることが第一歩となります。

大学や専門学校で得た知識は
数多くあるとは思いますが、
その多くは「学ぶまでは知らなかったこと」です。

学ぶ前まで、知識量は今いる患者さん達と
それほど差は無かったはずです。

仮説を立て、カウンセリング・問診で検証する

想像をしていくと、仮説が立つと思います。

例えば、ミュータンス菌についてなら、
「ミュータンス菌は元々口の中にいると
知らないかもしれない」、
これが仮説になります。

仮説が立つと、正しいかどうか、
確かめてみたくなってくるでしょう。

そんな時に役に立つのが
カウンセリングや問診票です。

特に、初診カウンセリングは
仮説検証には格好の機会です。

患者さんは自分の常識によって答えるので、
歯科医院側との常識の差が浮き彫りになります。

あとは、患者さんのお口の中の状態に沿って、
その差異を埋めていくと良いでしょう。

自分の口の中の状態が基本にあっての提案であれば、
よもや「関係無い」とはならないはずです。

しかし、「興味が無い」というのは
もちろん考えられます。

「お金が続かない」も出てくると思います。

これらの「断り文句」への対処方法や捉え方は
予防歯科啓発とは別の話です。

それに、全ての人から賛同を得るのは
元々無理な話ですから、
あまり気にしなくていいとは思います。

このような事を気にしているよりは、
患者さんが貴院の考え方に触れる機会を
増やすことを考えることの方が得策です。

例えば、地元の小学校やシニアサロンで
話す機会を設けるなどです。

話すネタが無い…と躊躇したら、
大学や専門学校のオープンスクールに
参加してみるのも一手です。

実験やワークショップを行っているので、
参考になると思います。

卒業生を伴っていけば、
そのスタッフが元気にやっているという
報告にもなります。

常識の差異がわかれば、寄り添える

予防歯科の究極の目的はQOLの向上です。

「一生自分の歯で食べるために」や
「8020を目指しましょう」は、
QOLの向上の言い換えという解釈もできますが、
常識が違う、このことにより
患者さんに寄り添った表現であるとは言えません。

「歯を磨いているのにむし歯になるのはなぜ?」
という質問や、
「メンテナンスに通っているのにむし歯になった」
というクレームからうかがえる常識の差異を知ること。

そして、
その差異を埋めて健康の考え方へ
患者さんを導くことが
正しい習慣としての定期通院をもたらすと
言えるでしょう。