タービン、フッ素、レントゲン…。

いずれも診療側である医院が当たり前に行っている
処置・行動に対する警鐘として
メディアに取り上げられたり、
以前から論争があったりするトピックです。

あなたも患者さんに質問されて、
対応に苦労した経験がある人もいるでしょう。

やむを得ない事情があるなんてとても言えないし、
多くの場合は取り付く島もないので、
苦々しい思いをしたかもしれません。

しかし、こういうトピックこそ
多くの患者さんの信頼を得るために活用できます。

どのように活用するのでしょうか?

まずは、予防といえば…のフッ素なので
この事例を見ていきましょう。

暗黙の了解は通用しない

A歯科では小児患者のリコール時には、
フッ素ジェルを塗布しています。

ある日、リコールを終えたBちゃんが、
スタッフに伴われ待合で待つ
お母さんの元へ戻った時のことです。

「おかあさん、おいしいのぬってもらった~」
「ん?何を塗ってもらったの?」
「フッ素ジェルです。30分は食べたり飲んだり
しないようにして下さいね。」
とスタッフが応えると、

「えっ!」とサッと母親の顔色が変わりました。
そして、
「フッ素?親に断りなく塗ったんですか?」
「あ、あの… す、すみません…」
母親の形相にただならぬものを感じたのか、
スタッフはしどろもどろ。

「今さら謝られても…
Bちゃん、ぶくぶくしよう、ねっ?」

何かヤバそう…と受付が院長を呼び、
現れた院長に母親は静かに怒りをぶつけます。

「フッ素が危険だということはご存知なんですか?
子どもだけ連れていったのは、
親に黙ってフッ素を塗るためなんですか?」

子どもが怖がって泣き出してしまったので中断。
でもその後は泥仕合でした。

Bちゃんの幼稚園の園医をしていることもあり、
気まずさは数年に及んだそうです。

選択の余地を与える

この話の問題点を一つだけ挙げるとすれば、
それは母親Bに選択の余地が無かったことです。

知らないうちに、
我が子が危険にさらされるような選択をさせられた、
このことが母親Bを不安にさせ、
怒らせたのでしょう。

事前にA歯科医院がどのように小児リコールを
行っているのかがわかっていれば、
母親Bは「断る」ことができたでしょう。

患者さんの質問は疑念と不信をはらんでいることがある

センシティブで話題性のあるトピックに対して、
「当院はこう考えています」と
明らかにするのにはリスクが伴います。

叩かれる勇気が必要な行為です。

だから、
聞かれたら答えるに留める方が無難だと考える人は多いです。

けれど、忘れてはならないのは、
患者さんが「突如として」質問してくる時には、
既に疑念や不信感を抱いているという事実です。

「フッ素は危険だとネットで見たけど、
自分のかかりつけではどうしているのだろうか」
「放射線の害が怖いからレントゲンを撮って欲しくないけど、
治療のためだと言われたら…」

患者さんは、歯科については素人です。

素人だから、
「専門家にこんなこと聞いたら失礼」だと思っています。

また、質問するなら自分に相応の知識が無いといけない、
と思ったりもしています。

メディアや自分に影響力のある人からの情報で
不安になっているのに、
かかりつけ医で何の情報も得られそうになかったら?

さらに自分で調べるか、人に訊くしかないのです。

そして、そういう場合に得る情報は大体偏っています。

医学的根拠に基づいた情報は、
患者さんにとって理解するのが難しいために、
どうしても「声の大きな」情報にばかり触れてしまうためです。

そのため、疑念ばかりがふくらみ、不信感を抱くのです。

だから、
「こういうことがあることを私たちは知っていますよ」
と前もって知らせておくことが
非常に重要になってきます。

患者さんへどうやって知らせるか?

上の事例で具体的には、
・院内通信等でフッ素について書く(正しく使えば予防効果がある、など)
・フッ素塗布を行っていることを院内掲示やホームページで知らせる
・掲示物を初診時に配布する
などがあります。

情報を提供しても、
「見てない」「忘れた」と言われてしまうリスクも
確かにあります。

しかし、
質問された時に資料をすぐに用意できるのと、
そうでないのには、患者さん視点から見たときには
雲泥の差があります。

「質問があることをきちんと予測していました」と
示すことになるからです。

その予測は、患者さんへの配慮に他ならないのです。

インフォームド・コンセントにつながる

「当院はこう考えています」と示すことで、
「断る」「尋ねる」という選択肢を
患者さんに与えることができます。

例えば、

―当院では、小さなお子さんにフッ素塗布を行っています。
フッ素を使わない予防方法もありますので、お気軽にご相談ください。

これであれば、フッ素はちょっと、
という患者さんは断ることができます。

また、フッ素を使わない予防方法について聞くこともできます。

大半の「お任せします」という患者さんには、
他の方法もある、という情報を提供できます。

「私はこうです」と言うと、信頼が得られる

医院のスタンスや方針を患者さんにわかる形で示しておくことで、
・患者さんに選択肢を与えられる
・情報提供ができる
というメリットがあります。

最大のメリットは、
信頼を得られることです。

「私たちはこう思っています。あなたは?」と
尊重されると、
患者さんは「ここならわかってくれそうだ」と感じて、
信頼を寄せます。

メディアが取り上げるのは、
多くの人の関心事ですよね。

歯科やお口に関わるトピックを目にした患者さんが、
一番に思い浮かべるのは、
やはりかかりつけ医でしょう。

「名乗るのは、自分から」
これは、医療接遇的にも合っています。

医院独自の方針を示して、
長く続く信頼を勝ち取ってください。