A歯科医院では、半年に1度
院長がスタッフ全員と個別面談を行っています。

2年前から始めたので、
今回で4回目の個別面談です。

今、A院長の目の前には、
入職して2年目の歯科助手Bさんがいます。

「…そうか、なるほど。そろそろ時間だね。
他に何か質問とか、困ったことは無いかな?」

「いえ、特に…無いです。」

「そうか、良かった。困ったことがあったら
いつでも言って欲しい。」

「はい、ありがとうございます。」

こうしてBさんとの面談は終了。

他のスタッフとの面談も同様に問題なく終了しました。
やれやれです。

困ったことは無いと言っていたのに

面談を終えてから1週間後のこと。

突然、Bさんが院長に
「お話があるのですが」と言ってきました。

ただならぬ雰囲気を漂わせたBさんを
呼びよせるや否や、
「辞めさせていただきたいです。」とBさん。

とんでもなく驚いたA院長は
理由を尋ねてみましたが、
Bさんは固く口を閉ざし続け、
ついには「お世話になりました。すみません。」と言って、
大きな荷物と共に帰って行ってしまいました。

「本当は困ってたんじゃないか。
それなら、言ってくれればよかったのに。」

A院長はこう思いましたが、後の祭りです。

具体的な返答を得るには?

「困っていることはありませんか?」

「問題はありませんか?」…
このように尋ねても具体的な答えは何も返ってこない、
こういうことはよくあります。

スタッフに訊いたときだけではなく、
対患者さんでも経験がある方は
多いのではないでしょうか。

困ったことや問題は、
院長という立場で考えた時には
無い方が良いに決まっています。

そうは思っていても、
「あるんだったら力になりたい」と思うのが普通です。

だから尋ねるわけなのですが、
具体的な答えが返ってくることはあまり無いために
面談やカウンセリングはあまり有効ではないと
考えてしまいがちです。

しかし、実は面談やカウンセリングの行為そのものに
問題がある訳ではありません。

その行為の捉え方を少し変えると、
具体的な答えが返ってくるようになります。

具体的に見ていきましょう。

「困っている事探し」をしない

スタッフ面談の場合
「スタッフの困っている事探し」を目的にしがちです。

ですが、もしスタッフに困ったことがあったとしても、
院長に、または自分より立場が上の人に
打ち明けることはほとんどありません。

なぜなら、打ち明けることは「解決してください」と
お願いすることと同じだからです。

上役に何とかしてくれと頼むなど、
普通の部下ならできるはずがありません。

かといって、
もちろん信頼していない訳でもありません。

要は、迷惑をかけたくない、
面倒がられたくないという気持ちがあるので、
困ったことを打ち明けられないのです。

面談は情報交換の場

例えば、
就職面接であれば相手が自分の医院に
ふさわしいかどうかを決めるために、
志望動機や、相手の価値観がわかるような
質問を投げかけると思います。

欲しい情報が引き出せるように、
自分が持っている情報を呼び水として
与えることもありますよね。

それと同じで、相手がどんな様子なのか、
何を考えているのかがわかる情報を
引き出せるような質問をすることが大事です。

例えば「医院の雰囲気を今よりももっと良くするには、
どうしたらいいと思う?」
という質問であれば、
相手が何を問題だと思っているかという情報が引き出せます。

また、自分が雰囲気を良くしたいと思っているという情報も
与えることができます。

患者カウンセリングも同様に

同様のことは患者さんのカウンセリングにも言えます。

「気になっている所はありませんか?」ではなくて、
「私はコーヒーが好きでよく飲むんですが、
○○さんはどうですか?」

「歯ブラシはどんなものをお使いになっていますか?」

など、気になっている所がわかるような質問をすることで、
患者さんの潜在的な考えを引き出します。

落としどころは決めておかない

事例のA院長は
「困っていることは無いといいな」という
自分の無意識の願望を
面談の落としどころにしてしまっていました。

「困っていることは無い」という結論へ
誘導してしまっていたのです。

・困った事探しをしない
・相手から情報を引き出す

「ダイレクトに問題に迫った方が早いんじゃないのか」

回り道に思えるかもしれませんが、
急がば回れではないでしょうか?

自然な流れに委ねて出した結論の方が
より納得感があり、継続しやすいでしょう。