お口の中の悩みは個人的なもので、
他人に知られるのは恥ずかしい。

こう考える患者さんが大半です。

だから、
診療室は目隠し程度のパーテーションを設置したり、
カウンセリングルームだけは個室
という歯科医院もあるでしょう。

しかし、
プライバシーに配慮することだけを考えていると、
思わぬトラブルに発展してしまうことが
ままあります。

今回は、
そのプライバシーに配慮することで
生まれるリスクとその対策について
考えていきます。

プライバシーに配慮したからこそ起こったトラブル

「自分の話が人に聞かれていると思うと、
相談がしにくい」

こういう患者さんの声を受け、
A歯科ではメンテナンスを個室で行うことに
なりました。

スタッフの利便性を考えて、
スライドドアを設置し
個室化したメンテナンスルーム。

プライバシーに配慮しました、
というのが効いたのか、
メンテナンスを目的に
初診で訪れてくれる患者も
出てくるようになりました。

しかし最近、
衛生士Bさんが時々病欠するようになりました。

Bさんは、
これまで急に休むことはあまりなかったので、
「何かあったのでは」と心配するスタッフもいます。

A院長も、心配しつつも
「今辞められたら困る」と不安を覚えます。

でも、Bさんに
悩みがあるなら聞くよと言っても、
「急に調子が悪くなることがあって…」
としか言いません。

今朝もまた、
Bさんから医院に電話があり
「休みたい」とのこと。

受付はBさんが少しでも元気になればと、
馴染みの男性患者Xさんの名前を挙げ、
「Xさんも心配してたよ」と言うと、
Bさんは黙り込んでしまいました。

そして、翌日退職を願い出てきたのです。

Bさんは、メンテナンスルームで、
Xさんからセクハラを受けていたのだそうです。

何がリスクだったのか?

このようなケースに対しては、
一番先に人的リスク(Xさんの性癖など)を
原因として挙げ、
感情的に対処してしまいがちです。

しかし、
人的リスクを取り除こうとすると
必ず周囲を巻き込み、
トラブルが複雑化する傾向にあります。

また、Xさんのような動機を持った人は、
どこにでも必ず一定数存在している、
いわば常態化リスクでもあります。

ここで、考えていただきたいのが
プライバシーに配慮することで
生まれる「機会」です。

もしも、Xさんが、
メンテナンス患者でなく、
要治療患者だったら?

もしも、
2人きりという機会が無かったら?
Xさんは、Bさんを誘ったでしょうか?

「機会を減らす」という考え方

むし歯がなぜできるか、を
むし歯要因の輪の重なりで
説明する「カイスの輪」。

むし歯の要因もまた1つでは無く、
複数の要因が重なり条件が
そろった時にむし歯になる、
という歯科界ではおなじみの理論です。

これと同じように
今回のケースについて考えてみると、
プライバシーに配慮したことが
2人きりという「機会」を生み、
そこにXさんという「人的リスク」が重なって、
トラブルが発生した。

こう考えることができるのではないでしょうか。

他にもあるプライバシー配慮のリスク

プライバシーに配慮することで、
かえってトラブルが増えるケースは意外と多く、
昨今の個別対応やオンデマンド化を
良しとする潮流の中にあっては、
残念ながら増えつつあります。

なぜなら、
プライバシーに配慮することは、
盲点を増やすことにもなるからです。

具体的に盲点になりそうなのは、
今回の個室もそうですし、
カウンセリングルームも
同じことだと思います。

また、
歯を磨くための洗面スペースや販売品の棚に
使い捨て歯ブラシやマウスウォッシュを
置いている医院は多いと思いますが、
悲しいことに「バレなければいい」と
考える患者さんは一定数存在します。

そして、
窃盗の現場を別の患者さんが目撃してしまい、
「この医院は大丈夫なのか…?」
と不安を抱くことも十分考えられ、
これもまたプライバシー配慮のリスクだと思います。

最も有効なプライバシー対策とは

プライバシーに配慮することそれ自体は、
患者さんやスタッフの安心安全を
確保するためには必要な方針です。

しかし、それが盲点を作り、
トラブルが起こる機会を作ってしまうことを
まず知っておくことが非常に大事です。

そして、人的リスクを減らすよりは、
機会を減らすことの方が何倍も簡単です。

防犯カメラや小型カーブミラー
(設置している医院は結構あります)、
ドアではなく「すだれ」、
ガラスなどを活用して、
盲点を減らすことが、
最も有効なプライバシー配慮だと
言えるでしょう。