「病院に行くとこれしちゃダメ、
あれしちゃダメと言われるのがストレス…」

このように言う患者は多く存在します。
歯科医院も例外ではありません。

こういった患者の本音とは裏腹に、
医療機関では相手に禁止や制限を
強いるような表現が多く使われています。

医師もスタッフも、
そういった表現はあまりしたくない反面、
そうとしか言いようのない場合も
多々ありますよね。

そして、禁止や制限は、
患者も言われたくないでしょうが、
医療機関側もなるべく言いたくないものです。

もし、否定的な表現を使わずに
同じ内容を伝えることができれば、
患者さんにとっては聞き入れやすく、
また、医療機関側も伝えやすくなると思います。

では、実際の例を見ながら、
どのような言い方であれば
聞き入れてもらいやすくなるのか、
考えてみましょう。

否定ばかりのブラッシング指導

A歯科のメンテナンスルームで、
衛生士Bさんが患者さんに
ブラッシング指導の為に染出しをしています。

定期メンテナンスに通っている患者ですが、
ところどころ真っ赤に染まっているようです。

「ここと、ここと、ここが磨けてないですねえ」
「そうですか…」
「ちょっと、いつもしているように磨いてみて下さい。」
「(ちょっとためらった後、磨き始める)」
「はい、歯ブラシはグッと握らないで下さいね。
あと、いっぺんに磨くじゃなくて、
1本ずつ磨くようにしてみて下さい。」

この患者さんは気分を少し害していそうです、
そう思いませんか?

言っていることは間違っていないとしても

お分かりの通り、
Bさんは決して間違った事を
言っているわけではありません。

問題を指摘して、
正そうとしているだけですが、
・否定的な内容で話し始めている
・否定的な表現のみを行っている

この2点の表現上の課題により、
患者さんに
「(私は)どうやらダメらしい」という印象を
抱かせてしまっているように思えます。

これだと、患者さんは歯磨きに対して
苦手意識を持ってしまうかもしれません。

そうなると、
患者さんのモチベーションは下がります。

そして、その後の指導内容が
頭に入ることは無いでしょう。

表現によって
指導の効果も変わってしまうのです。

表現のコツ

ではBさんは、
どのように言えばよかったのでしょうか?

・「ここと、ここと、ここが磨けてないですねえ」
→「こことここは磨けています。
でも、ここは染まっています。」

専門家の否定的な発言を、
一般の人は重く受け止めがちです。

磨けている所もあると示して認め、
バランスを取るといいでしょう。

・「はい、歯ブラシはグッと握らないで下さいね。
あと、いっぺんに磨くんじゃなくて、
1本ずつ磨くようにしてみて下さい。」
→「歯ブラシは鉛筆みたいに持つといいですよ。
1本ずつ磨く感覚で磨いてみて下さい。」

「いっぺんに…」は、
言わなくても通じます。

間違いを指摘したら、
患者さんはやる気になるでしょうか?
必要のない否定は避けましょう。

他にも、
携帯電話使用禁止ではなく、
→携帯電話の使用をお控え下さい。

また、
・30分間は飲食をしないで下さい。
→30分経ったら飲食できます。
など、禁止・制限ではなく、促し・提案に
切り替えると意識することが大切です。

これは、スタッフ同士の会話や、
歯科医師からスタッフへの指示でも同じことが言えます。

環境も表現をつくる

言い方や表現は、
どのような環境にいるかによっても大きく左右されます。

もし、上の例のBさんの様子を
新人スタッフが見学していたとしたら、
新人スタッフは言う事を聞いている
患者さんを見て「ブラッシング指導は、
こういう言い方をするものなんだな」
と思うかもしれません。

自分もまた患者さんに指導することを
前提に見学しているので、
「どのように言えばいいか」という言い回しを
意識して覚えてしまいがちです。

Bさんもまた、
先輩から「こういうものだ」と
学んできた可能性があります。

中断やドタキャンが増えてきたと感じたら、
患者さんへの声掛けを見直す機会かもしれません。

良い印象が患者さんに動機をもたらす

予防のメンテナンスを、
「治療した歯の運命は抜歯」
と脅しに近いようなフレーズを使って
勧める衛生士に会ったことがあります。

言っていることは間違っていませんが、
歯科医院に定期的に通う動機につながるとは
思えませんでした。

怖いことを言う人だな、
定期メンテナンスはこの人が担当するのであれば、
毎回脅されるのはゴメンだな…こう思いました。

事実に忠実であることも大切ですが、
患者さんが受け取るのは印象です。

患者さんに、定期的に、しかも自発的に
通ってくれることを目指すのであれば、
「ここに来ると健康になれそうだ」
「やる気になる」
このような印象を受け取ってもらえるよう
心掛けて表現することがとても大切です。