もしもあなたが、
「歯科医師なんだから、むし歯は無いはずだ。」
このように言われたらどう思うでしょうか?

「スタッフは、休みを与えると喜ぶ。」
これはどうでしょうか?

こんな風に、
属性によってまとめて扱うことにより、
相手に受け入れられないことがあります。

どうしてでしょうか?
まず事例から見ていきましょう。

手間取る初老婦人への対応

A歯科の受付カウンターに、
初老の女性がいます。

問診票の記入に手間取っているようです。

受付Bさんは、
女性の様子をうかがっています。

ここで、先輩Cが現れ
「よろしければ代わりにお書きしますが…」と
伝えました。

女性はホッとしたように
「じゃあ、お願いします。」と応えました。

「Cさん、さっきはありがとうございました。」
「ううん。あのご婦人は、実は右手がひどくしびれているみたい。
それで、書くのが難しいんだって。」
「そうだったんですか…。」
「ああいう時って、
患者さんからは(手伝ってほしいと)言い出しにくいもんだからね。」

Bさんは、患者さんからは
手伝ってほしいと言い出しにくい、
これについては理解できました。

でも、「ああいう時」ってどんな時だろうか…?
と、先ほどの場面を思い返してみました。

そして、
「高齢者は手伝いが必要な人が多いようだ。」
このように結論付けました。

手伝おうとしたのに「いいから。」

しばらく経ったある日、Bさんは、
玄関先で靴を脱ごうとしている
高齢の男性を目にしました。

左手を下足用の棚に付き、
支えにしており、

男性の動作はゆっくりとしているように見えます。

Bさんは急いで近づき、
しゃがんで靴を脱がせにかかろうとした時、
男性から、
「いや、いいから。」
と制されました。

てっきり喜んでくれるとばかり思っていた
Bさんですが、驚いて手を止め、
受付に戻りました。

同じ男性から診察券を受け取る時の
ちょっと気まずい雰囲気…。

何でだろう…と
Bさんはモヤモヤしました。

違いは「一般化」にある

「助かる」と思ってもらえたC先輩と、
「いいから」と制されたBさんとでは、
一体何が違うのでしょうか?

その違いは、「一般化」で説明できます。

まず、Bさんの持つ前提です。

声を掛けずにいきなり手伝おうとしたBさんは、
「高齢者は手伝いが必要な人が多いようだ。」
という前提を事前に得ていました。

この前提に従って、
「高齢者だから手伝った」のかもしれません。

もしこの仮定が当たっている場合、
Bさんは、相手の男性を「高齢者」と
一般化して扱ったために、
厚意を拒絶された
ということが言えると思います。

Bさんに対し、
相手は軽い拒絶を示しました。

この拒絶が示すのは、
「私は高齢者ですが手伝いを必要としていません。」という意志です。

男性は、Bさんが親切心でしたことを、
「ちょっと失礼だな」と感じていそうですよね。

逆に、先輩Cさんは、
相手を一般化せず、相手の意向を尊重したために
安心を与えることができた。
ということになるのではないでしょうか。

手伝いが必要かどうかを尋ねてから、
女性の返答により手伝いをしたため、
相手をホッとさせることができたのです。

Bさんに対してはアドバイスが必要

この後Bさんが自分の厚意を
無下にされたと拗ねてしまい、
「高齢者であっても、男性は手伝いを必要としていない」
と再び一般化し直してしまうか、
それとも、
「次は相手の意向を尋ねてみよう」
と思い直せるかどうかは、
院長や先輩スタッフのサポートの有無が
大いに関係してきます。

ここで院長や先輩が
「まとめて扱うとせっかくの親切心がもったいないよ」
などのアドバイスをすれば、
次からは適切な応対を
とれるようになるでしょう。

一般化は珍しいことでは無い

一般化は特に珍しい現象ではありません。

男性(女性)は~…、学生は~…、
などの属性に言付ける表現は、
情報番組や雑誌、ネット記事で
よく見かけます。

また、ちょっとイラついた時に、
「ああいう奴は…!」
などと言ってしまうこともあるかもしれませんね。

一般化の向き不向き

一般化は、傾向を理解しようとする時には
大いに役立ちますが、
個々の行動や意向などを理解しようとする時には
あまり向いていません。

「歯周病患者には喫煙者が多い」
これは傾向が理解でき、
手立てを考えるのに役立ちます。

一方で「●さんは歯周病なので喫煙者だろう」と
考えるのはどうでしょうか。

決めつけに近く、●さんのことを理解する気は
あまり無さそうに響きます。

一般化せず、目の前の患者さんへ集中

同じことは予防指導についても
言えるのではないでしょうか。

予防指導が上手くいっていない医院では、
「こんなこと言っても患者さんはわかってくれないだろう」
といったような過度の一般化が
常態化しているように思います。

なぜ予防が必要なのか、
どういう予防が必要なのかを、
一般化することなく
個々の患者さんへ寄り添って伝えていく。

この姿勢が、
患者さんに安心感や信頼感をもたらします。

ぜひ、
目の前の患者さんに集中してみてください。