予防の大切さを患者さんに話す時、
何をどんな風に話すことが多いでしょうか?

「歯磨き?もちろんしてますよ。」

こう言い切る患者さんを目の前にして、
「でも、今のままだと危険ですよ。」と
言えるでしょうか?

普段の当たり前を変えてもらうこと。
予防の一番の難しさはここにあります。
どうしたら変えてくれるのでしょうか?

良くない習慣を持つ初診患者

A歯科に初診の患者さんが来院しました。

問診票を見ると、朝食後と夕食後に
歯みがきをしているようです。

また、昼間にスポーツドリンクを
よく飲むと書かれています。

お口の中を拝見すると、
危なそうな予感がチラホラ…。

患者さんも、
白濁した歯がふと気になって
来院したと言っています。

正直、今のままだと、
近いうちにむし歯だらけになるかも…
という悪い予感は拭えません。

習慣に起因する課題

すでにお気付きの通り、
この患者さんの場合は、

・酸性かつ糖分を含む飲み物を断続的に摂取する習慣がある
・何らかの理由で、昼の時間帯は歯みがきをする習慣が無い

このように「習慣」がベースにある課題があります。

そして、この「習慣の課題」に
どう取り組むかによって、
お口の中の状態が変わってくることが
容易に予想できる為に、
定期メンテナンスを勧めるのであれば、
当然このタイミングです。

問題は、
それをどうやって勧めるかですが…。

ジャッジすると患者さんは置いてきぼりになる

専門家としては、悪い所を見つけたら即、
「指摘して改善させなければ!」という
衝動に駆られてしまいがちです。

しかし、
このように良し悪しをジャッジすることによって、
起こる弊害があります。

それは、
患者さんの気持ちが置いてきぼりになることです。

例えば、この患者さんの場合だと、
「歯を磨くことは当たり前で、
それをやっているのにおかしくなった。」
と思っている可能性が高いのです。

加えて、
スポーツドリンクは身体にいいと
信じている可能性も高い。

そうでないと、
わざわざ問診票に書きませんよね。

このような状況で、
1.(できれば)昼も磨いてください。
2.実は、スポーツドリンクには
糖分が多く入っているんですよ。

などと言うと、
患者さんは
「えっ、私が悪いってこと?」と
思ってしまいます。

なぜなら、
・昼に磨いていないからおかしくなった
・身体にいいものだと信じてたのに実は悪いものだった
このように受け取ってしまうからです。

そして患者さんは、
「私が悪いって言われた」というショックで、
その場所から動かなくなります。

これが、
先ほど言った置いてきぼりの正体です。

置いてきぼりにしない声かけとは

患者さんをこのように
置いてきぼりにしないためには、

1.1日に2度は歯磨きをしているんですね。
2.身体のことを考えてスポーツドリンクを飲んでいるんですね。

など、最初に患者さんの行動や習慣を
認めることが非常に大事です。

認めたうえで、
きちんとやっていたのに
こんな風になったんですね、

今はまだ大丈夫だから、
定期メンテナンスに通って
今の状態を維持しませんか?
と、こんな風に話を進めていくのが
自然かつ最良ではないかと思います。

話のポイント

ポイントは、患者さんの習慣を否定しないことです。

この患者さんにとっては、
昼に歯を磨かないことや
スポーツドリンクを飲むことは当たり前で、
現在の暮らしと合っている、
問題はないと思ってそうしているのでしょう。
(仕方が無い、というのもあるとは思いますが。)

そして「認める」は
褒めることとは少し違いますので、
無理して誉め言葉をひねり出す必要はない、
というのもポイントです。

たまに、
「忙しい中2回も磨いてスゴイですね!」とか
「わ~健康のために投資してるんですね!」などと
少し過剰な認証コメントをする人がいます。

しかし、
習慣の多くの動機は「何となく」ですので、
やり過ぎると、中にはバカにされたような
気分になる人もいるようです。

あくまでさらりと事実を認めるのがコツです。

歯医者に来たくて来る人はいない

この事例で一番認めてあげるべきなのは、
「白濁がふと気になって歯医者に来たという行動」
だということに気づいた人も多いと思います。

なぜなら、
病院に来たくて来る人はほとんどいないからです。

同様に、自分を認めてくれない人の言うことは、
あまり聞き入れる気にならない、
という人がほとんどだと思います。

「良いか悪いか」というジャッジは
一旦置いておいて、まず認める。

この心がけは、
患者さんに限らず歯科医院経営全般に
言えることかもしれませんね。