トリートメントコーディネーターとして
予防歯科の普及に携わってきて
強く実感していることがあります。

それは・・・

「患者よりも、
 院内に予防歯科を浸透させることの方が
 ずっと難しい!!」
ということです。

患者は、詳しい歯科医療の知識や
凝り固まった考えがない上に、
口腔内の悩みへの助けを求めています。

予防歯科はその解決になるので、
正しい知識さえ提供すれば、
一気に予防歯科へと意識を変えてくれます。

一方歯科医院に勤めるスタッフは、
良くも悪くもそれまでの自分の経験ややり方が
身についてしまっています。

それは歯科衛生士の専門学校に通い始めた頃から
長年かけて培われてきたもので、
一朝一夕で変えられるものではありません。

そのスタッフ本人が心底予防歯科を理解し、
本当に考え方を変えようと意識しない限り、
変わらないのです・・・

本物の予防歯科になるには、長い期間がかかる

予防歯科に取り組まれていると、
理想として思い描いているものと、
目の前の現実とのギャップに
苦しむことも多いかと思います。

理想として掲げるものが高ければ高いほど、
そのギャップは大きくなるでしょう。

そのギャップこそが悩みの種となりますが、
そのこと自体に必要以上に悩むことはありません。

よく予防歯科のセミナーなどで例えに使われるのは、
「予防歯科とは、
本棚に“予防歯科”という本を一冊増やすのではなく、
本棚ごと“予防歯科”に変えなければならない」
という言葉です。

この言葉からも分かるように、
予防歯科に取り組むということは、
・新しくセラミックを導入する
・新しい予約管理ソフトに変える といった
レベルの問題ではありません。

予防歯科とは、
「歯科医院の根っことなる方針」そのものであり、
根本的な哲学なのです。

ですから当然、
予防歯科を歯科医院の全体、
すみずみまでに浸透させるのは、
数年がかりの大仕事になると心積もりにしておく必要があります。

その上で、今できる目の前の問題を
少しずつクリアしていけば、
大きなギャップに漠然と悩む必要はなくなると思います。

予防歯科をあなたの歯科医院に浸透させるためには、
日々の患者対応が
「予防歯科のやり方にのっとったものであるか」
を確認していくという地道な作業が必要です。

全ての患者に思うような歯科医療が
提供できているかどうかを確認することには
根気が必要で、即効性がある特効薬にはなりません。

しかし本物の予防歯科になるためには、
表面をなぞるだけではいけません。
地道にコツコツとやっていく以外に方法はないのです。

そしてその確認作業を院長や歯科医師だけで行っていては、
スタッフが蚊帳の外になっていまいます。
これではスタッフ教育になりません。
どんなに頑張っても孤軍奮闘 空回りになってしまっては
もったいないことです。
必ずスタッフを巻き込んでやっていくようにしましょう。

予防歯科を成功させるために、カンファレンスを活用しよう

その具体的な方法として、カンファレンスがあります。

カンファレンスには
・毎日行うカンファレンス
その日の午後や翌日来院する患者の申し送りを行うもの
・週1回行うもの
その週の初診患者が対象となるもの
などがあると思います。

カンファレンスで大事なのは
スタッフに発表をさせることです。
前回の診療や初診時の検査を担当した歯科衛生士に、
その内容や今後の治療方針について発表してもらうのです。

院長や歯科医師、リーダー格の歯科衛生士が
中心になってやれば時間もかからずスムーズでしょう。
しかし、それではほかのスタッフは
「見ているだけ」になってしまい、
そこにいるようで実は参加していることになりません。
自分で考えることを必要としないからです。

スタッフに発表してもらうと、
スタッフそれぞれが自分で考えるようになり、
当事者意識が生まれます。

発表の内容からそのスタッフの理解度を知ることができるので、
個人が何につまずいているのかも分かります。

さらに発表するために
あらかじめ患者の検査結果やカルテを見直したり、
発表のための準備をしたりするでしょう。
それはスタッフが勉強する機会となり、
予防歯科の理解度が深まっていくのです。

効率は悪くなるかもしれませんが、
それ以上に大きな効果が期待できます。

発表へのフィードバックのしかたを考える

スタッフの発表では、院長や歯科医師からみると、
指摘したいことが山ほどある場合もあると思います。

しかし、それを気付いたままに全て注意していけば、
せっかく発表をしたスタッフのモチベーションを
下げてしまうことになりかねません。

状況によってはイライラしてしまうことも
あるかもしれませんが、
スタッフもそれなりに緊張やプレッシャーを
感じながら発表にのぞんでいます。
一旦ぐっと抑えて、
まずは現状をそのまま受け入れることが大事です。

難しいですが、人間としての度量が試されています!

現状の問題点だけでなく、
長い目でそのスタッフの成長を考えたときに、
今指摘するべきこと、
患者のために最低限注意しておくべきことは
何かを冷静に判断してフィードバックをするようにしましょう。

間違いを正すために批判するのではなく、
患者のため、スタッフの成長のために、
自分に何ができ、どう思うか、という態度が
マナーとして求められます。

人は鏡という言葉がありますが、
「ここが間違っている!」
「僕が指示したこととは違うじゃないか!」 と
こちらが戦闘態勢になってしまうと、
どうしても相手も
「でも…」
「それは…だからで」 と
臨戦態勢になってしまいます。

「これには、何か理由がある?」
「僕が指示した内容を覚えてる?
分かりにくいところがあった?」 と言葉を変えれば、
お互いに建設的なディスカッションが
できるのではないでしょうか。

まずはスタッフが発言することそのものが大事です!
その芽を摘んでしまわないようにしたいものです。

一番大事なのはトップの信念と愛情

理想とする予防歯科への道のりは、
長く険しいものです。

予防歯科を成功させるために一番大事なのは、
「トップのぶれない信念」です。

理想を実現するためには、
ときにスタッフに厳しく接さなければならない場面も
出てくるでしょう。
しかし厳しさと同時に、スタッフへの愛情が必要です。

周りが問題だらけに見えることもあるでしょうが、
一番心強い味方になってくれるのは、
目の前にいるスタッフです。

予防歯科の考え方を理解することは、
スタッフにとっても大きな財産となるはずです。
ともに予防歯科を創り上げていく仲間として、
愛情をもって接してあげてくださいね。

そうすることで、
院内のコミュニケーションが活発になり、
最強の予防歯科チームができあがる
・・・かも知れませんよ!