認知症。
高齢化が進む日本では2012年の統計によると
65歳以上の有病率は10%強
ともいわれているそうです。

認知症といっても多種多様な症状がある中で、
歯科治療やケアをおこなう際には
どんなことに気をつければよいのでしょうか。

日本は今、急速に高齢化しています。
そのような中「認知症」という疾患とは
きっても切り離せない関係になっていくことは
想像に難くありません。

今すでに、患者さんに認知症の方がいらっしゃるあなたも
そうでない方も・・・

これを機に「認知症」と口腔ケアについて
理解を深めてみませんか?

認知症と口腔状態の悪化の関係性

認知症の症状には、中核症状と周辺症状があります。

  • 中核症状:記憶障害、認知障害など
  • 周辺症状:中核症状に環境要因が複雑に影響してさまざまな表現型として表出する。
    (暴言・暴力、食行動の異常、幻覚・せん妄、無気力・無関心など)

中核症状の進行ももちろん問題となりますが、
周辺症状の進行によって日常生活の維持への
阻害要因となることも問題です。
また周辺症状の悪化は、介護者の普段を
増加させることも留意する必要があります。

さらに、口腔衛生の観点に目を向けてみると、
周辺症状の悪化は口腔の衛生状態の悪化や
歯科治療などの実施を阻む要因となる可能性があります。

例えば、あなたの患者さんでこんな方いませんか?

  • 食べてはいけないもの(土やティッシュペーパーなど)を
    急に口に入れ始めた。(食行動の異常
  • 歯磨きに関心がなく、実施しない。(無気力・無関心
  • 介護者が口腔ケアをしようとしても嫌がる。(介助の拒否

これらをそのままにしてしまうと、

  • 口腔内が不衛生になる
  • 歯周病の悪化
  • う蝕の進行

などが起こる可能性があります。

これらが積み重なることで口腔機能が低下し、
低栄養状態となり、
最終的に全身状態が悪化することも
懸念されます。

そうはいっても、
認知症の症状は複合的でアプローチが難しいものです。

でも、1つだけ念頭においておくとすると
相手に理解できる言葉と態度で接すること
が重要です。
簡単に言うようで、一番難しいことだと思いますが、
ぜひ頭のすみにおいておいていただきたいと思います。

認知症における口腔ケアの注意点

口腔ケアの注意点を簡単に紹介します。

○慣れた環境でケアをしましょう

認知症の方は新しい場所や人、物に
順応しづらい傾向があります。
まずはケアを受ける環境に順応させることが
重要です。
パニックを起こさないように、
慣れた介護者が付き添うなどの対応をとると
よいでしょう。

○安心してケアを受けてもらいましょう

ケア中に不安を感じると、恐怖感を持ったり
混乱してしまい、過剰な反応を惹起してしまう
ことがあります。
そこで、常に声をかけて安心させたり、
和やかな雰囲気を作ったりすることは重要です。
また、急に器具を触れさせたりすることの
ないように注意しましょう。

○ケア中は安全に配慮しましょう

高齢者は嚥下機能が低下しており、
誤嚥の危険性が高いです。
誤嚥が起こらないように十分配慮しましょう。
また上の項目とも重なりますが、
ケア中に不意に反応して体を動かしてしまうことも
ありますので、危険防止にも配慮しましょう。

○あなたの患者さんはどんな薬を飲んでいますか?

薬剤の中には副作用として
吐き気、嘔吐、唾液量の増える(減る)
興奮しやすくなる、不穏になる  など
さまざまな作用を持っている薬剤があります。
高齢者の多くは、複数の診療科から多剤を
併用していることが多いため、
使用している薬剤などを把握しておきましょう。

「抑制」が必要になったら

抑制は、

  • 治療やケアの意義を理解してもらえない
  • 不安感により治療を拒否されてしまう

といった場合でも、
治療やケアがどうしても必要な場合に
実施することが多いと思います。

全身を抑制する場合は、
全身を固定するような方法や、長時間の抑制は
過剰な拒否反応を示すことがあります。
この場合、治療中の反応によるケアへの障害も
さることながら、
拒否反応が日常生活に影響することにより、
介護負担が増大することがありますので
注意が必要です。

患者さんによっては、手で振り払ってしまうとか
引っかかれるなどの拒否反応を示す方もいます。
その場合は、「手を抑制する」という方法を
用いることもあります。

手を抑制する場合は、
手首を押さえつけても、指先が自由に動くので、
つかむ・ひっぱる・引っかくなどの拒否反応を
おこします。
また強く抑制しすぎると手首にあざが
ついてしまうこともあります。

そのため、握手をするように手を握って抑制
します。
こうすることにより、
指先の自由もきかなくなりますので
コントロールしやすくなります。
さらに手を握ることにより安心感を与えることも
できます。

ただ、抑制していても思いもよらない力で、
体を動かそうとする患者さんもいるのでは
ないでしょうか。

治療やケアでは口腔内に器具を入れていることも
多いので、不意の動きにあっても器具で口腔内の
粘膜を傷つけたりしないように注意する必要が
あります。
そのためにも口腔内をケアする際には、
通常の診療時以上にしっかりと
目的とする場所の近くにしっかりと手指などを
固定するようにしましょう。
さらに不意の動きにも対応できるような
器具の動かし方や器具の素材の選択を
検討してみてもよいかも知れませんね。

いくつになっても
口から美味しい食事を取れるということは
人生の中の楽しみの一つであることに
変わりはありません。

今後、増えてくるであろう「認知症」をもつ
患者さんのために・・・

今回の記事が、安心して口腔ケアを受けられる環境整備
始めるきっかけになればいいなと思っています。