残念ながら欧米諸国に比べて今の日本では、
予防歯科の考え方はまだまだ浸透していません。
「歯医者は痛くなってから行けばいい」
「虫歯ができたら治療すればいい」
という考え方をしている人の多さを、
日々実感されている方も多いのではないでしょうか?
患者の心を予防歯科の考え方へと変えていきたい…
それには一体どのように患者に伝えればいいのか…
どうすれば予防歯科に関心を持ってもらえるのか…
この悩みは尽きることがありません。
今回は、予防歯科の方針に共感してくれる患者を
増やす為に、効果的な話し方についてお話します。
「説得する」のはNG
どうにかして患者に予防歯科の良さを分かってもらいたい。
そう思うほどに、
なんとかうまく予防歯科のメリットを伝えよう、
予防歯科の方針を分かってもらえるように上手に説明しよう、
と思うかもしれません。
しかし、やみくもに説明するだけでは、
うまく伝わらない…
そう実感されている方も少なくないのではないでしょうか。
「お口の健康のためには治療するよりも予防することが大事で…」
「虫歯にならないために、定期的な健診が必要です。何故かというと…
そのためにはまず唾液検査を受けることをおすすめします。」
あなたが一生懸命説明しているとき、
患者はその話を聞いてくれていますか?
頑張って説明しようとすればするほど、
話が長くなってしまって患者の注意力が散漫になっていませんか?
それから、
「私達の歯科医院ではこういう方針で治療を
進めていますので、よろしくお願いします。」
と患者の了承や合意を得て治療を進めているつもりでも、
それでは患者は歯科医院の方針に言われるがまま
従っているだけになってしまいます。
予防歯科を理解して共感してもらったことにはなりません。
本心から予防歯科に納得しているかどうかは分からず、
主訴の治療が終わったら来院しない、
メインテナンス来院につながらないといった結果を
招きやすくなります。
これは、患者の心が変わっていないからです。
このように患者をなんとか「説得しよう」としても、
なかなか思うようにいかないと思います。
必要なのは、
患者を説得して「了承してもらう」ことではなく、
患者自らが「予防歯科のやり方で進めてください」と
希望する方向に向かわせることです。
それのとき初めて、
患者の心が予防歯科に向かったと言えるのです。
患者の心を変えるには「説得」ではなく「質問」すること
それでは患者に「予防歯科で進めてください」と
言ってもらうためにはどうすればいいのでしょうか?
最初に答えを言ってしまうと、
それは「質問」をすることです。
「歯医者に行くたびに削られて痛い思いをするのは嫌ではありませんか?」
「健康になるために治療を受けているのに、治療が終わった後歯を失ったり
銀歯が増えているのでは、逆の結果になっているとは思いませんか?」
「同じ歯医者にお金をかけるなら、健康のためにかけたいと思いませんか?」
このように、
はじめはまず「はい・いいえ」で答えられる質問をして、
患者が話す順番を作ります。
そうすれば、
会話の主導権はこちらが握って伝えたいことも話しながら、
患者も会話に参加することができます。
うまくいけば、
「実は前に歯医者に行ったときにもこんな治療をして…」と
患者自らが話を始めてくれるきっかけになり、
こちらの話も最後まで聞いてくれやすくなります。
患者自身が質問に「はい」と答えることが大事
せっかく質問をしても、
こちらが思うような返事がもらえなければ意味がありません。
「唾液検査は受けられますか?」→「受けなくてかまいません。」
「予防をするためには、どうしても通院回数がかかりますが、
かまいませんか?」→「通院回数は少なくしてください。」
というような例です。
これは質問のしかたがマズイのです。
質問をするときには、
こちらがほしい返事をもらえるように、工夫をして質問しましょう。
さきにご紹介した質問はどれも、
患者の共感をえやすい内容になっています。
「歯医者に行くたびに削られて痛い思いをするのは嫌ではありませんか?」
一般常識的に考えると、
この質問にはほとんどの患者が「はい」と答えると思います。
「健康になるために治療を受けているのに、治療が終わった後歯を失ったり
銀歯が増えているのでは、逆の結果になっているとは思いませんか?」
この質問も、歯科医院での治療経験が多く、
口腔内にコンプレックスを持っている患者ほど
強く共感してくれるものです。
このように、
質問もとりあえずすればいいというものではなく、
工夫と戦略が必要です。
予防歯科のメリットを伝える合間に
上手な質問をくり返していけば、
患者に予防歯科の魅力が伝わりやすくなります。
そして最後に
「こういう理由で、当院では予防歯科を治療方針にしています。
その方針で進めていってもかまいませんか?」
と決め手となる質問をすることで、
「予防歯科のやり方で進めてください」と、
患者本人の意思で予防歯科へと向かっていくことができるのです。
効果的な質問には練習が大事
このような質問のしかたは、
すぐにうまくやることは難しいです。
私も何度も練習をして、
少しずつ効果的な質問のしかたが分かるようになってきました。
身近にお手本となるスタッフがいるのが理想的ですが、
そのような環境に恵まれていることは稀だと思います。
まずは「型」を作って覚えることから始めてみましょう。
患者に予防歯科について説明をするときのセリフを作ってみるのです。
そのときに、ところどころで今回ご紹介したような質問を
はさむようにしてみてください。
最後に患者の意思確認をするときも、
必ず質問で終えるように作ります。
理想をいえば
スタッフ同士でつくったセリフを元にロールプレイングをして、
お互いの印象を意見交換できればベストです。
なかなか歯科医院がそのような空気にないときでも、
プリントアウトしたものを誰かに見てもらうだけでも違います。
「型」ができたら今度は実践です。
同じ型をくり返すことで、どの言葉が患者に響きやすいか、
どの言葉は分かりにくいかが読めるようになります。
そしてより効果的な質問をできるようにセリフを改善していきます。
こうやってくり返していけば、
あなただけの「型」が出来上がります。
すぐに完璧なものを作ることは難しいですが、
このように試行錯誤して完成したものは、
必ずあなたの財産となるでしょう。
完成した頃には、
おもしろいほどあなたの歯科医院の予防歯科の方針に
共感してくれる患者が増えているはずです。