患者さんに定期検診やメンテナンスに
きちんと通ってもらうためには、
患者さんとのコミュニケーションを
作り上げることがとても大切です。

特に新患をリコールに繋げるためには、
いちばん最初のスケーリングが肝心なのです。

■自分本位の考えが、患者の定着の邪魔をする

どれだけ優れたスケーリングの技量を
持っていても、患者さんが不快感を覚えると、
そこで「この人はイヤ」になり、
定期検診の案内を送っても
次から確実に来なくなります。

これはスケーリングの腕だけが
問題ではありません。

確かに歯肉が腫れているときの
スケーリングは痛みや出血を伴います。

また長時間口を開けているのが
辛い人もいます。

しかし患者さんが
「もう来たくない」と思う原因は、
スケーリングそのものではなく、
歯科衛生士とのコミュニケーション構築の失敗です。

こんな言葉を聞いたことがあります。

私が通っている美容院の
女性スタイリストさんは、
私が以前勤めていた歯科医院の患者さんでした。

待ち時間のあいだにたまたま
先日のスケーリングの話になったのですが、
すごく苦しくて最悪だったということです。

痛みがあり苦しかったのかと思いきや、
彼女は重度の鼻炎を患っており、
鼻が詰まって呼吸するのが辛かったそうです。

その時のスケーリングでは、
最初に「では歯石を取っていきます」と
言ったきり、上顎のスケーリングを一気に行い、
その間ひとことの声掛けもなく、
そしていちどもチェアを起こすことも
なかったそうです。

もちろんなぜスケーリングが
必要なのかについての事前説明も
ありませんでした。

その衛生士は超ベテランで、
歯科医師の片腕と言われる存在です。

スケーリングの腕もきっと優れているのでしょう。

しかしその歯科医院はリコール率が低く、
再来院に繋がりません。

担当制を取っていないことも
理由のひとつかもしれませんが、
予防治療に力を入れている歯科医院なら、
たとえ担当制でなくとも患者さんは来るはずです。

ベテラン衛生士に欠けていたもの、
それは「患者さんへの説明不足と
コミュケーション不足」だったのです。

ベテラン衛生士は途中で
「痛くないですか?」などの声掛けや、
途中で起こして休憩させるなど、
患者さんに沿った対応をしていれば
このような事態を防ぐことができたでしょう。

またスケーリングを受けた彼女は
「なぜ歯石取りが必要なのかわからない」と
言いました。

つまりベテラン衛生士は
歯石除去の必要性やそのままにしておくことで
起こりうるリスクなどを一切説明せず、
自分本位で処置を進めていったのです。

これでは患者さんが定着しないのも当たり前ですね。

患者さんにとって歯科医院は面倒くさいところ。
できれば通いたくないと思っている人が
ほとんどでしょう。

これぞまさに
「歯が痛くなってから歯医者に行く」に
繋がるのではないでしょうか。

■患者さんに予防歯科の概念を持ってもらうためには

デンタルIQが高い人は、
なぜ予防が大切かを理解し、
自分から進んで定期検診の予約を取てくれます。

しかし、
今までスケーリングやクリーニングを
したことがない患者さんは、
その必要性を理解していない人がほとんどです。

その声は「結構面倒くさいね」「痛そう」
などというものが多く、
あまり好意的に捉えられていません。

そこで大切なことが
「説明を中心としたコミュニケーション」です。

スケーリングを始める前に
モニターや資料などを使い、
予防処置の必要性についてしっかりと説明し、
なぜスケーリングが必要なのか
患者さんにまず理解してもらう必要があります。

毎日の歯磨きだけでは
プラークが作られてしまうこと、
そしてプラークが歯石になり溜まることで
歯周組織に炎症が起こり、
歯周病悪化の原因に繋がることを
まず理解してもらうことから
はじめなければいけません。

そして何度か定期検診を受けるうちに
歯肉の状態が安定していることがわかると、
患者さんはようやく予防処置の大切さを実感し、
「この衛生士さんのおかげ」と感じ、
歯科衛生士との間に良好な関係が生まれてきます。

治療を行うことは歯科医師の役割です。
しかし予防処置は歯科衛生士の仕事です。

どんなに歯科医師が完璧に治療を行っても、
歯科衛生士の対応次第で状況はガラリと変わり、
患者さんに「治療には来るけど、
歯石取りには行きたくない」と
思われる結果に繋がり、
いつまでもリコールに繋がりません。

患者さんに定期検診の重要性を理解してもらい、
リコール率を上げるために必要なことは
担当制というよりも、歯科医院全体が
予防処置に力を入れ、スタッフ全員が
その必要性を説明できるスキルを
持っておくことです。

例えば会計時に受付スタッフが
患者さんに「こんな痛くて面倒くさいこと、
なんで必要なの?」と聞かれた場合でも
「予防処置を受けることで、
歯の健康を守ることが可能なのです」と
ひと言添えることで、
患者さんの予防治療に対する概念が
少なからず上がることが期待できます。

しかし予防治療の中心は歯科衛生士です。

患者さんが治療だけ、
または一度のスケーリングだけで
去ってしまうか、
ずっと通ってくれるかどうかは、
歯科衛生士とのコミュニケーション構築に
かかっているのです。