日頃から予防歯科に取り組まれている
あなたの歯科医院では、保険診療だけでなく、
インレーやクラウンなど自由診療の補綴物を
取り扱っているところも多いと思います。

どのマテリアルを選ぶかは、当然その選択肢の中から
患者が決めることになるわけですが、
「先生のおすすめはどれですか?」
「どれがいいんですか?」と聞き返されて
返答のしかたに戸惑ってしまったことはありませんか?

今回はそんなときの対応のコツについてご紹介します。

「おすすめ」を聞かれて悩んでしまう理由は…?

「おすすめ」と聞かれて悩んでしまう理由は
なんでしょうか?

安易に自由診療をすすめてしまって
「高いものを売りつけようとしている」と
思われるのが心配。

そう思われている方が多いのではないでしょうか?

たとえば、患者の家庭で歯科治療費のほかに
お金がかかる事情(子供の学費、家族の病気など)が
あると知っている。

患者自身が学生であったり、
働き始めて間もない若い患者であったりする。
など、このように患者の生活背景を知っているからこそ、
保険診療よりも治療費のかかる自由診療を
すすめることを申し訳ないと感じることもあると思います。

しかし、そのようなあなたの心配が、患者への配慮を
しているつもりで配慮になっていないこともあるのです。

「おすすめする」のではなく「紹介する」

もし自由診療を紹介することを戸惑う理由が
「金額」であれば、そのマインドを変える必要があります。

自由診療でもなんでもそうですが、
いくつかの選択肢を患者に説明するときには、
「おすすめする」のではなく「紹介をする」という解釈で
とらえることが大事です。

「おすすめ」という言葉には、
患者を説得してこちらが良しとするものを
買ってもらうというニュアンスを含んでいて、
主導権が歯科医院側にある状態になってしまいます。

そうではなくて、
本来はどの選択肢を選ぶかということは、
患者が主体になって決めるべきです。

全ての選択肢を全ての患者にきちんと紹介することは
歯科医院の役割ですが、その上で判断をするのは患者です。

あくまでも「紹介」なので、売りつけではありません。

歯科医院としては、患者が納得のいく選択をできるよう、
きちんと説明をする責任があります。

勝手に申し訳ない気持ちになって
自由診療のマテリアルの説明をせずに、
後から「口を開けた時に見えるから銀歯よりも
本当は白い歯の方がよかった」と言われたら、
それはこちらの責任なのです。

全ての方にきちんと紹介を。

そのためには補綴物の紹介パンフレットなどがあれば便利で、
歯科医院側も紹介するハードルが下がります。

どうしても説明しづらい場合は、
「虫歯治療が必要な患者さんには、
皆さんに説明しているのですが」等と前置きすれば、
話しやすくなると思います。

「高い」「安い」は歯科医院が決めることではない

そもそも「高いものをすすめて申し訳ない」と思うことは、
患者のお財布事情をはかっていることになります。

よく考えてみれば、それは失礼なことです。

歯科医療のプロとしては、金額ではなく医学的観点を
患者に伝えるべきです。

患者の「どれがいいですか?」という質問で
患者が聞きたいことは、歯科の専門家としての意見なのです。

確かに自由診療のセラミックやジルコニアは
保険診療の金銀パラジウム合金よりも、
金額設定は高くなるでしょう。

しかし、その金額に見合う理由があるはずです。
その点をきちんと理解し、患者に説明をしましょう。

その上でその補綴の価値(高いと感じるか、
安いと感じるか)は患者が判断するべきことです。

「高い」「安い」とは、歯科医院が決めることではありません。
同じ金額でも人によって判断基準は違います。

もっと言えば、あなたの個人的な主観で判断された
「高い」「安い」という言葉で補綴物を説明して
しまわないように、充分注意してください。

実は「おすすめ」はない!?

カウンセリングで患者から
「おすすめはどれですか?」と聞かれたときに
私がよく使っていたのは、

「実はおすすめはありません。」
という言葉でした。

この言葉の“惹き”はバツグンで、
まさか「おすすめはない」という返事を
予想していなかった患者は、ぐっとこちらの話に
集中してくれるようになります。

私がこの言葉で伝えたかったのは、
どのマテリアルにも、必ず一長一短あるということ。

患者によっては金額最優先のこともあれば、
審美性を優先する場合、
安全性を優先する場合、
それぞれのバランスをみて選ぶ場合などさまざまです。

同じ特徴が患者にとってメリットになったり
デメリットになったりするのです。

「それぞれ患者さんの判断基準によって、
何がメリットになるかは変わってくるんです。」と
話しながらそれぞれのマテリアルの特徴を紹介し、
どれがいいかを決めるのは患者本人だと話すと、
説得力が増すように感じています。

そうすれば、自由診療の紹介をしても
「あそこの歯医者は高い治療ばかりすすめてくる」と
思われることはありません。

また、患者の口腔内によって「おすすめ」は違います。

補綴治療が必要な部位、歯並びや対合歯の状況、咬合力…。
さまざまな観点を総合的に考えて、
その患者の補綴治療にふさわしいマテリアルは
変わってくるはずです。

患者個々によって違うその観点をきちんと話せば、
患者は「自分のことを考えてくれている」
という印象を持ってくれるでしょう。

それでも「おすすめは?」と聞かれたら

それでもどうしても患者から
「おすすめは?」と聞かれることもあるでしょう。

そんなときには、「私個人的には…」という前置きをして
「おすすめ」を伝えるといいでしょう。

この前置きをすることで、
今から話すことはあくまでもあなた個人の価値観である
ということを強調することができ、
患者にそれを強要するものではないと伝えることができます。

「あなたのおすすめはなんですか?」と
聞かれることは患者からの信頼の証でもあるので、
真摯に答えましょう。
人間関係が深まると思います。

不思議なことに、
「自由診療を増やすぞー!」
「自費補綴の売り上げアップ!!」と
意気込むよりも、これくらいのスタンスで臨んだ方が、
自由診療の売り上げは上がります。

それは、歯科医院側の一方的な売り込みではなく、
患者自身が「自分で本当に良いものを選ぶ」
という気持ちになるからだと感じています。

自由診療を「紹介する」ことを遠慮する必要はありません。