長年やってきた習慣を変えるのは、
簡単ではありません。

そのことを踏まえて、
歯科医師や歯科衛生士は、
歯磨き指導や患者指導をしなければいけません。

とはいえ、
いつまで経っても
患者さんのPC(プラークコントロール)が
改善しなかったり、
治療に対して協力的ではなかったりすると、
指導する側の心も折れてしまいますよね。

そこで今回は、
習慣を変える患者指導の方法について
解説していきます。

間違った指導とは?

間違った指導をすると、
患者さんは
やる気を無くしてしまう可能性があるので、
改善することは難しいです。

最悪の場合には、
通院が途絶える原因になることもあります。

そんなことにならないためにも、
次の2つのことに注意が必要です。

①一度に指導を多くしようとしている
②短期的な成果を求めすぎている

それぞれについて詳しく説明していきます。

①一度に指導を多くしようとしている

PCが悪く、
生活習慣も不規則な患者さんに、
多くのことを求めて過ぎていませんか?

例えば、
朝しか歯磨きをする習慣がない方に、
1日3回歯磨きを指導するのはナンセンスです。

また、
今まで1つの歯ブラシしか使用してこなかった
患者さんに対して、

  • ブリッジの部分には歯間ブラシ
  • その他の歯はデンタルフロス
  • 歯磨き後には、うがい薬でうがいをしてください

などと、
一気に使う道具を増やしてしまうと、
患者さんの負担が大きくなって
途中で止めてしまう確率が高いです。

人間の脳には、急激な変化を嫌う
安定化志向という性質があります。

安定化志向とは、
一度に大きく変わろうとすると、
脳が拒否反応を示すことです。

脳には自己防衛本能あるので、
変化を危険と捉えてしまいます。

そのため、

「患者さんのモチベーションが高いうちに!」

といったように、
多くの課題を出したり、
習慣が大きく変わることを指導すると、
脳が危険と判断して止めさせるのです。

また、
モチベーションに頼り過ぎるのもよくありません。

目標を立てた時は、
モチベーションが高い状態なので
1〜3日程度は継続します。

しかし、モチベーションは
体調やスケジュールの内容によって
上がり下がりの振れ幅が大きいので、
習慣化をモチベーションに頼ると、
調子の良い時はできるけど調子が悪くなると
行動が止まる状態になってしまうのです。

②短期的な成果を求めすぎている

短期的な成果を求めたにもかかわらず、
その成果が見えてこないと、
患者さんはモチベーションが下がって、
行動を止めてしまいます。

また、
患者さんが目標を達成した自身の状態
よくわかっていなかったり、
忘れてしまったりすると
短期的な成果がどうしても
欲しくなってしまう可能性があります。

これは、
患者さんだけではなく、
指導する側も同じです。

患者さんが行動したことで、
どんな口腔内になるのかを明確に説明しないで
指導だけが進んでしまうと、

「あんなに指導したのに
全然改善されていない…。」

とスタッフも不満を感じてしまう
可能性があります。

成果が出ないのは、
患者さんの行動が足りてないのではなく、
目標の妥当性がわかっていないからだと
思いませんか?

患者さんの習慣を変える4つのコツ

患者さんが
無理なく新しい習慣を身につけるには、
次の4つのことに注意して指導をしましょう。

①小さいことから始める
②欲張らずに1つずつ習慣を作る
③目的を明確にする
④イメージさせる

それぞれについて、説明していきます。

①小さいことから始める

脳は急激な変化を嫌う安定志向がある一方で、
ちょっとだけ変われる可塑性という性質を
持ち合わせています。

この可逆性の性質を生かして
指導を行ってみてはいかがでしょうか。

例えば、
朝の起床後しか歯磨きをしない方は、
朝の起床後ではなく食後のどこかで
歯磨きを1回してもらうように指導します。

食後の歯磨きの方が、
口の中がスッキリする感じを実感してもらい、

「もっとやりたい!」

と気持ちを起こすことが狙いです。

この少しの意識の変化が、
新しい習慣を作り出すコツになる
可能性があります。

②欲張らずに1つずつ習慣を作る

「早く口の中を良い状態にしてあげたい…。」

こういったことを考える
医療従事者の気持ちは非常にわかります。

しかし、いっぺんに新しいことを始めると
脳がパンクしてしまい、
結果的に、
習慣にならずに終わる可能性が高いです。

指導は、
焦らず1つずつ確実に行うとよいでしょう。

例えば、
歯ブラシ以外の清掃道具は、
1つに絞ります。

患者さんの手先の器用さや
性格を観察しながら
適切な清掃道具を選択して、
使い続けてもらいます。

しばらく使い続けることができたら、
次のステップに進みましょう。

新たに清掃道具を増やしたり、
磨き方を指導したりと
患者さんが確実にできること
を増やしていきましょう。

③目的を明確にする

患者さんが歯磨きを習慣化する目的を
はっきりさせましょう。

また、治療を受ける患者さんも同様に、
治療の目的を明確に伝えましょう。

例えば、

  • 患者さんのPCを改善させたい
  • 口の中をもっと清潔に保って欲しい

こういったことを考えている場合には、

「歯磨きをする習慣を身につけた方が良いから。」

だけでは、内容が漠然としています。

他にも、
虫歯の治療が必要な患者さんに、

「虫歯の治療をします。」

だけでは、何も変わりません。

そこで、

「○○を達成するために今、
この行動を続けましょう!」

目的を明確にしてみましょう。

歯磨き指導の場合には、

「歯茎の炎症がまだ軽度なので
今、歯磨きの仕方をしっかりと身につければ
歯周病の進行が酷くならずに済みます。
歯周病が酷くならないためにも、
歯垢をしっかりと落とす歯磨きを
身につけましょう。」

虫歯の治療説明の時は、

「根の中にいる虫歯を取り切るのに
数回の通院が必要です。
また、しっかりと歯が使えるようになるまで、
治療を頑張りましょう。」

というように、
歯磨きをする目的や通院する目的を
明確にすることで、達成率が上がる
可能性があるでしょう。

④イメージさせる

指導内容を継続させるには、
指導後や治療後のイメージが
できていないと難しいと思いませんか?

患者さんは、
歯磨き指導を受けることでどうなりますか?

歯磨きしやすくなったり、
口がスッキリしたり、
歯茎が引き締まったりなど
多くのメリットがあります。

一方で、
治療を受けた後はどうなりますか?

被せ物が入って噛めるようになったり、
1つの歯がまた噛めることで
他の歯の負担が減ったりします。

具体的に、
未来の自分をイメージさせることは、
ただ、闇雲に行動するのとは違って、
どうすればイメージする自分になれるかを
考えるようになるので、
治療に対して協力的になります。

まとめ

何十年もの習慣を変えるのは難しいです。

しかし、
患者さんとコミュニケーションを取りながら、
4つのコツを行うことで変わっていきます。

また、
治療に対して協力的ではない方には、
今の口の状態や治療を放置した結果、
治療した先をイメージさせることで、
通院が途絶えるのを格段に減らすことができます。

患者さんの未来をイメージしながら、
自分の指導法や治療説明を見直してみて下さいね。