
患者さんが服用する薬の中には、
唾液の分泌を抑えたり歯肉や味覚に影響を
及ぼしたりするものがあります。
薬の副作用が口内環境に関係することを理解し、
トラブルの早期発見や予防につなげましょう。
今回は、お薬手帳を通したリスク共有の
工夫について考えていきます。
お薬手帳の確認をしていますか?
医科では一般的な「お薬手帳」ですが、
歯科で確認している医院は多くありません。
しかし、服薬情報には口腔環境に影響を
与えるヒントが多く隠れています。
高血圧症や糖尿病・不眠症などの治療に用いられる
薬の中には、唾液分泌の低下や味覚異常、歯肉の
肥厚といった副作用が見られることがあります。
口腔トラブルは、加齢や生活習慣のせいと
判断してしまいがちですが、実際には服薬が
関係しているケースも少なくありません。
お薬手帳を確認すれば、「薬の種類」「服薬期間」
「用量」といった情報を把握できます。
患者さんの全身状態を理解して適切な指導へと
つなげていくために、積極的に活用していきたい
大切なツールだと言えるでしょう。
口内環境に影響のある薬
口腔に影響を与える薬は多岐にわたります。
患者さんの服薬内容をチェックすることで、
思わぬヒントが得られることがあります。
【口内環境に影響のある薬(一例)】
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種類 |
疾患例 |
口内環境に関する副作用 |
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抗うつ剤 抗不安剤 |
うつ病 自律神経障害 |
唾液の分泌量減少 |
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降圧剤 カルシウム拮抗薬 |
高血圧症 |
歯肉増殖 |
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抗ヒスタミン剤 |
花粉症 アレルギー疾患 |
唾液の分泌量減少 口腔乾燥 |
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利尿薬 |
高血圧症 心不全 |
口渇 味覚異常 |
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抗てんかん薬 |
てんかん 神経障害性疼痛 |
口内炎 歯肉増殖 |
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抗コリン薬 |
過活動膀胱 消化器系疾患 |
唾液の分泌量減少 口腔乾燥 |
同じ薬を服用していても副作用の出方には
個人差があり、必ずしも全員に症状が
現れるわけではありません。
ポイントは、「この薬を飲んでいる人は、
口腔の状態に変化が出ることがあるかもしれない」
と意識することです。
頭の片隅に置いておくことで、問診や口腔内の
チェック時の気づきが変わってくるでしょう。
適切な声掛けで口腔リスクと向き合う
副作用の可能性に気づいたとき、
注意したいのが患者さんへの伝え方です。
「〇〇に対してはよくない薬です」といった
否定表現は、処方した医師の意図を
批判することになりかねません。
まずは、「この薬には唾液の分泌が少し抑えられる
作用があります」のように、あくまで“特徴”
として事実のみを説明することを意識しましょう。
そのうえで、何もしないとどのような口腔リスクが
生じるのか、または現在口腔内にどのような兆候が
表れているのかを不安をあおりすぎないよう
丁寧に伝えます。
具体的な対処方法を伝えるのも、
大切な予防歯科の一環。
対策の提案時に使える声掛け例を
いくつか紹介します。
「乾燥しやすいと感じる場合は、
水分を意識的に取るようにしましょう。」
「唾液腺マッサージを取り入れてみましょう。」
「口が乾きやすい状態になっているので、
マウスウォッシュを選ぶ際は、アルコールが
含まれていないものがおすすめです。」
「歯ぐきが膨らんで歯ブラシだけでは汚れが
取り切れないことも出てくるので、
歯間ブラシやフロスも併用してみてください。」
声掛けからの流れで、定期的な検診やPMTC、
唾液検査等につなげていくのも効果的です。
薬の副作用を理由にネガティブな印象を
与えるのではなく、患者さんとともに
“上手に薬と付き合う方法”を考えていきましょう。
まとめ
お薬手帳は、患者さんの全身と口腔をつなぐ
重要な情報源です。
服薬の背景を理解し、適切に声をかけることで、
口腔トラブルの予防と患者さんの安心に
つなげていきましょう。






