前回は初診時のカウンセリングの心構えについてお話しました。
患者の話を聴き出す力が必要とされる初診カウンセリング。
今回はもう少しテクニカル的な面から考えていきたいと思います。
カウンセリングの基本!何よりも聴くことが大事
カウンセリングを行うにあたっては、うまく説明することよりも、
うまく相手の話を聴き出すことの方が先決です。
“積極的傾聴”という言葉があります。
これはカウンセリングの基本的な態度のことで、自分の耳だけでなく、
目、頭、心全てを集中させて相手の言葉を聴いて受け入れていきます。
そして聴くためには、うまく質問をしていくことが大切です。
効果的な質問をすることによって患者自身に気持ちよく話をしてもらいながらも、
会話の主導権はこちらが握っている状態が理想です。
それでは、患者の本音を聴き出すためには具体的に何に気を付けてどうすればいいのか、
みていきましょう。
聴き出す技術1~観察をして優位に立て
患者を診察室やカウンセリングルームに案内した時に、
「さぁカウンセリングを始めるぞ!」
を思う方がいらっしゃることと思いますが…残念、それでは少し不十分です。
カウンセリングを始める前に、まず初診患者が待合室にいる様子を観察しましょう。
- 落ち着いているか、そわそわしているか。
- 顔が腫れていたり、明らかに具合の悪そうな表情をしていたりしていないか。
- せっかちそうか、それともおっとりしたタイプの方か。
挙げればキリがないほど、患者の待合室での様子や受付スタッフとの会話の仕方からは
様々なことを読み取ることができます。
カウンセリングを始める前に患者を観察すると、
患者と直接話し始める前に対策を練ることができます。
話し始めた後で「あれ!?なんだかこの人せっかちかも…!」と気付くのと、
前もって予想をつけておくのとではこちらの気持ちの余裕が違ってきます。
それだけではありません。
患者が記入した問診票にもかなりの量の情報が詰まっています。
主訴はもちろん、服用薬や既往歴の確認。問診票に書かれた細かい言葉の選び方。
また患者の性格は字にも現れることが多いものです。
小さい丁寧な字か、迷いなく書かれた大きな字か。
前もって問診票を読みこむと、いろいろな疑問がわいてくるはずです。
この薬は何故飲んでいるのかな?
症状はかなり前から始まっているのに来院が遅くなったのは何故かな?
「とにかく早く治療してほしい」と書いているのは何か理由があるのかな?などです
(たとえばそれが単に歯医者が嫌だからなのか、仕事が忙しいからなのか、
転勤などの予定があるのかなどでこちらの対策もかわってきます)。
そういった疑問点はできればカウンセリング前に整理しておいて、
聞きのがしのないようにしましょう。
聴き出す技術2~第一印象がモノを言う自己紹介
初診患者は少なからず警戒心を持っています。
患者に気持ちよく話をしてもらうためには、
まずは最低限こちらを信用してもらわなければなりません。
そのために必要不可欠なのが自己紹介です。
私の経験上、
たとえ受付で「初診の方はまずカウンセリングをします」と患者に伝えていても、
ピンと来ていない方がほとんど。
カウンセリングルームに案内した患者は「今から何が始まるの?」
と不思議そうにされることが多いものです。
ですからまずは、
自分が何者で、なぜカウンセリングをするのか、から話しましょう。
その細かい言い回しはそれぞれ考えていただきたいと思います。
鉄板なのは名乗って基本の自己紹介をした後に、
「カウンセリング?と思われるかもしれませんが、
歯医者ではなんとなくドクターに言いたいことを遠慮してしまったり、
少し話しただけですぐに治療が始まって不安に感じたりという
経験をされる方が実は多いんです。」と続け、
その問題を解決するためのカウンセリングの時間であることを紹介する、というものです。
リアクションの良い方はこの時点で「そうそう!」と話に食いついてくれます。
ポイントは実際の患者さんの声としてこういうものがありますよ、と例に挙げることと、
患者の声を拾うシステムがこの歯科医院にはあると明確にすること。
自己紹介でうまく「ツカミはOK!」に持って行きましょう。
聴き出す技術3~「はい」と言わせろ!患者を話す気にさせる最初の質問
自己紹介が終わったら、主訴などを詳しく患者に訊いていく前に、しておくべき質問があります。
それはこうです。前述した自己紹介に続けて言います。
「患者さんの不安をなくして安心して通院してもらえるように、
当院ではお口を拝見する前にまずこういったカウンセリングの時間をとっています。
今から詳しくお話を聴かせていただいてよろしいですか?」
ポイントは最後のセリフ。
あえて疑問形で問いかけ、意図的に患者に「はい」と答えさせることが目的です。
不思議なことに、患者自身が「はい」という言葉を発することが、無意識のうちに
自分の警戒心をとき、話をする心の準備をしてくれるきっかけになるのです。
聴き出す技術4~患者への質問はクッション言葉、前置きを上手く使え!
歯科医院に訪れる方は自分の口腔内にコンプレックスを持っていることが多いです。
患者の仕事や家庭環境、金銭事情、既往歴などかなりプライベートな情報を知る必要が
出てくることもあり、カウンセリングをする側も患者に遠慮してしまうこともあるかもしれません。
そんな時に役立つのが前置きやクッション言葉です。
たとえば、「立ち入ったことをお伺いしますが…」
「失礼なことをお伺いするかもしれませんが…」
「お差し支えなければ…について教えていただけませんか?」というような言葉です。
プライベートで初対面の人にいきなり「何歳ですか?」と聞かれるのと、
「初めてお会いするのに大変失礼なことをお伺いするのですが、
よかったら今おいくつか教えて頂けますか?」と聞かれるのとでは、
あなたがより好印象をもつのはどちらでしょうか。
これらの前置き言葉やクッション言葉の引き出しはできるだけ多く持っておいて、
大事なことにズバッと切り込んでいきましょう。
聴き出す技術5~言う間でもなく共感が大事
患者は自分の話をする時に「こんなこと言っていいんだろうか」「こんな話をして恥ずかしい」
「怒られたらどうしよう」と不安な気持ちを抱えていることも多いものです。
たとえば
「分かってはいるけど忙しくてなかなか歯医者にくる時間がなくて…」と
打ち明けてくれた患者に対して、
「そうですか。これからは早く来てくださいね。」と言ってしまっては、
患者のモチベーションを下げてしまいます。いくらそれが正論だとしても、です。
この場合は「お忙しい中来ていただいてありがとうございます。」と伝え、
否定のニュアンスでなく、共感が伝わる言葉を使いましょう。
患者が話すことに対して、
「それは大変でしたね。」「かなりお辛かったでしょう。」などと
適宜共感の言葉をはさんでいくと、どんどんと話を進めてくれます。
それと同じく、言葉もできるだけ患者が使っている言葉使いと同じものを使います。
「右下の奥歯がズキズキして…」と話してくれた患者に対して
「はい、右下の臼歯が痛むということですね」と
不必要に自分の言葉に言い直さないようにしましょう。
無意識のうちに相手の心のひっかかりとなり、
「なんだか話しにくい人」という印象につながってしまいます。
カウンセリングとは“スキル”である=練習が大事
最後にお伝えしておきたいことは、今回の見出しにも「技術」と書いたように、
カウンセリングは“スキル”であるということです。
患者を思う“気持ち”や“思いやり”はとても大事です。言うまでもありませんね。
ですが残念なことに、それらは患者に伝わらなければ意味がありません。
その患者を思う気持ちの表現方法こそが“スキル”であり、
いかにあなたのホスピタリティを形として表現できるかが勝負なのです。
どんなに気持ちを込めて歌っても、
歌が下手では相手に不快感を与えてしまいます。
伝わる歌はその人の表現力があってこそ。
カウンセリングも同じです。
スキルは練習して身に着けるものです。
もともとの得意不得意だけではカウンセリングはできませんし、
最初から上手なカウンセリングをするのはとても難しいものです。
逆にいえば、練習さえすれば誰でも上達します。
最初はいっぱいいっぱいになってしまうこともあるでしょうが、かまいません。
繰り返すうちに“型”ができ、どんな患者でも対応できるようになっていきます。
オーラルヘルスケアチーム 歯科TC Nより