「あの歯医者さんは良かった」
「〇〇歯医者は最悪。もう二度と行きたくない」

前者ならともかく、
「最悪だった」という言葉を聞くと、
歯科医療に携わる者としては
ドキっとするでしょう。

しかし必ずしも
患者さんが感じる「良い歯医者さん」が、
絶対に良いとは限りません。

つまり歯科医療従事者が提供するサービスが、
患者さんにとって本当の意味での
満足ではない
からです。

ここで今回考えてみたいのは、
患者さんと医療従事者の感じる
「良い歯医者さん」とのギャップ
についてです。

現在抱えている問題を無くすことがゴール?

患者さんが歯科医院を受診する理由は
「歯が痛くなった」
「詰め物がとれた」
「入れ歯が合わない」など
歯やお口の中のトラブルの発生がほとんどです。

そして治療が終わったあとに
患者さんが決まって発する言葉は
「先生は治療が上手だから具合が良くなった」
ではないでしょうか。

つまり患者さんが抱く「良い歯医者さん」
=「最高の治療を提供してくれる歯医者さん」

という図式になり、
私たちが考える「良い歯医者さん」との
ギャップが生じてしまうのです。

痛くなった歯を削り、詰めて、
或いは被せてきれいに修復した
治療後の自分の歯を見て
「キレイに治った!」
「先生すごい!!ありがとうございます!!」
という言葉からは、
将来歯を失うかもしれないという不安が
1ミリも見えません。

ここに患者さんの予防意識の欠落
よく表れています。

しかしこれは、
患者さんの意識に問題があるのではなく、
歯科医療従事者である私たちにも
大きな責任があるのではないでしょうか。

インプラントも自費の入れ歯も、
咀嚼機能を取り戻す「良い治療法」であることは
明らかです。

実際にこのような優れた咀嚼機能がなければ
しっかり噛むことができません。

そのままにしておくと、
体の健康や脳の活性化の衰退に繋がるため、
機能回復のための治療は必要不可欠です。

ここで患者さんの満足心が
満たされてしまうのでしょう。

治療が必要になった原因を理解してもらう努力を!

しかし大切なことは、
「なぜこのような治療が必要になってしまったか」
ということを患者さんにわかってもらうこと

ではないでしょうか。

これはレジンで詰める処置でも
同様のことが言えます。

歯を削る量は少なくても、
歯を削ることに変わりはありません。

しかし、歯を削ることに
リスクがあることを知っている患者さんは
どのくらいいるのでしょうか。

つまり歯を削ることは
「総入れ歯予備軍」といっても
過言ではないのです。

もちろん治療を行った人全てが
総入れ歯になるわけではありません。

しかしほんの少し歯を削ることで
二次カリエスがシミのようにじわじわと広がり、
やがて再治療を繰り返すことで
歯を失うことになることを、
まず患者さん自身が理解することから
はじめなければいけません。

そしてそのことを理解させ、
予防治療へと繋げることが、
私たちの仕事
なのです。

きれいな補綴物を装着して
感激してもらうのではなく、
健康な状態を維持していますね、
この調子で頑張りましょう、
と言われることが
どれだけ大切で喜ばしいことなのかを
わかってもらえる努力を行うことが必要です。

それにはまず
患者さんに「危機意識」を持ってもらうことです。

なぜこのような治療が必要になったのか、
その理由をまず患者さんご自身に
わかってもらうような説明の工夫が必要です。

処置が必要になった歯については
もう今更言っても仕方ないため、
患者さんを絶対に否定せず
「今後このような治療をしなくてもいいように、
定期検診にしっかり通おう」
と思ってもらえるようお話を
して下さい。

その際、プラスに転じるように説明をしましょう。

マイナスなことばかり述べると
「もうどうせ悪くなるならとことん悪くなって、
総入れ歯でもいい」と思う人もいます。

そうすると、
予防意識から大きく遠のいてしまうので
注意が必要です。

きちんと予防治療を受けることで
これだけのメリットがあること、
そこを重点的に説明することで患者さんは
「ここの歯医者さんは、自分の歯のことを
ちゃんと考えてくれているのだな」
と感じるのではないかと思います。

治療ばかり来ていた患者さんが
予防治療にきちんと通い、
「この歯医者さんは歯の健康を守ってくれる
最高の歯医者さん」と思ってもらえるように

私たちは日々精進が必要なのではないでしょうか。