少子高齢化が進み、歯科衛生士の人材確保がますます
難しくなる中、「一度リタイアした衛生士の復職」
が注目されています。

出産や子育て、家庭の事情で現場を離れた
彼女たちは、経験も意欲もある貴重な人材です。

では、歯科衛生士が「もう一度ここで働きたい」と
思える環境とは、どのようなものなのか?
復職したくなるクリニックの特徴を
ご紹介していきます。

なぜ復職したがらないのか?リタイア層の本音

リタイアした歯科衛生士が復職に踏み出せない
最大の理由は、「子育てとの両立が難しい」
「ブランクによる自信のなさ」の2点です。

厚生労働省の資料では、歯科衛生士免許保有者
約30万人のうち、就業者は約14万人にとどまり、
約16万人は潜在的な人材として現場を
離れている状況です。
(出典:厚生労働省「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」)

なかでも離職の主な要因は「出産・育児」であり、
これが復職を難しくしている背景にあります。

加えて、日本歯科衛生士会が令和2年度に実施した
実態調査によると「出産・育児(16.7%)」
「経営者との人間関係(15.6%)」が離職理由の
上位に挙げられており、家庭事情や職場環境への
不安から復職をためらうリタイア層が多いことが
明示されています。
(出典:日本歯科衛生士会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」)

特に小さな子どもを育てている場合、
急な発熱や行事への参加など、
勤務時間の制限が避けられません。

そのため、一般的なフルタイム勤務に不安を感じ、
復職を諦めてしまうケースが多いのが現状です。

また、数年〜十数年にわたるブランクがある場合、
医療技術や器材、感染対策などの変化に
「自分がついていけるのか」
という不安も大きな壁となります。

「今さら戻って迷惑をかけたくない」
という気持ちが先立ち、
復職の一歩を踏み出せなくなってしまうのです。

それでも「ここなら戻りたい」と思わせるクリニックの特徴

一度リタイアした歯科衛生士が
「ここならもう一度働きたい」と感じるためには、
復職の不安を払拭できる環境づくりが不可欠です。

実際に、復職者が長く定着するクリニックには、
いくつかの共通点があります。

まず、研修・フォロー体制が整っていること。

ブランク明けの歯科衛生士にとって、最新の器材や
処置内容に慣れることは大きなハードルです。

業務マニュアルや教育担当のスタッフによる丁寧な
指導があると不安を和らげる大きな助けになります。

はじめはアシスタント業務からスタートし、
段階的に感覚を取り戻せるような配慮も効果的です。

次に、柔軟な勤務形態の選択肢があること。

週2〜3日からの勤務や、午前中だけのシフト、
長期休暇の相談がしやすい体制が整っていれば、
家庭と仕事の両立を目指す歯科衛生士にとって
大きな安心材料となります。

さらに、「助け合い」が文化として根づいている
職場の雰囲気も重要です。

たとえば、子どもの急な体調不良で休む場合も、
責められたり嫌な顔をされることがない、
こうした“心理的安全性”がある職場は、
復職者にとって何より心強い存在です。

また、実際に復職したスタッフの事例を
公開していることも、安心感につながります。

「私にもできるかも」と背中を押す、
貴重なロールモデルとなるからです。

このように、環境を整えることで
「ブランクがあっても働ける」
と感じてもらえる職場づくりは十分可能です。

制度や雰囲気の見直しは、結果的に新卒採用以上に
即戦力となるリタイア層の活用につながります。

実際の取り組み事例:復職を後押しする“仕組み”と“空気”

ある歯科医院では、在籍する7名の歯科衛生士のうち
5名が出産や育児で離職を経て復職した方です。

これだけ多くの復職者が定着している背景には、
制度と職場の雰囲気、両面からの
サポート体制があります。

この医院では、復職者向けに「おかえりプログラム」
と呼ばれる独自の支援制度を整備しています。

いきなり臨床業務に戻るのではなく、
アシスタント業務やカウンセリング業務から
徐々に現場に慣れるステップ形式で
再スタートできるよう配慮されています。

必要に応じて、専任の先輩歯科衛生士が
マンツーマンでサポートする体制もあり、
ブランクによる不安を軽減しています。

また、週2日勤務や午前のみの時短シフトの導入、
家庭都合による急な休みにも柔軟に対応する文化が、
子育て世代のスタッフにとって
大きな安心材料となっています。

職場全体に”お互いさま”の意識が根づいているため、
復職者が気兼ねなく働ける環境が整っているのです。

実際の声としては、「現場に戻るのは怖かったが、
ゆっくり慣れさせてもらえて自信が持てた」
「何年かけてでも戻れる場所があるのは心強い」
といった感想が寄せられています。

なかには時短勤務からスタートし、現在は常勤として
再び活躍しているスタッフもいます。

「戻ってきてくれてうれしい」という気持ちが
制度とともに根づいている、そんな職場は、
自然と人が定着しやすくなるのです。

復職支援は“信頼”と“定着”につながる未来投資

歯科衛生士の人材不足が深刻化する今、リタイア層の
復職支援は、単なる応急処置ではなく、長期的な人材
確保と職場の安定につながる“未来への投資”です。

「ブランクがあってもここなら安心して働ける」
と思える環境には、制度と文化の両面での支えが
不可欠です。

柔軟な勤務形態、段階的な復職サポート、
そしてなにより「戻ってきてくれてありがとう」
という温かな空気。

これらはすべて、復職者が勇気を出すための
後押しになります。

一度ともに働いた信頼できるスタッフに、
もう一度活躍してもらえる仕組みをつくること。

それは、新しい人材をゼロから育てる以上に、
確かな安心と即戦力をクリニックにもたらします。

変化の大きい今だからこそ、「復職したくなる
職場づくり」が、選ばれる医院への第一歩です。

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